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ヘリウムとは?太陽で先に見つかった元素を初心者向けに解説【2番元素】

ヘリウムとは?太陽で先に見つかった元素を初心者向けに解説【2番元素】 自然・宇宙・科学

風船を浮かせるガス。声を高くするパーティーグッズ。ヘリウムと聞いて思い浮かぶのは、そんな軽い用途かもしれません。

しかしヘリウムは、MRIや半導体工場、ロケットの打ち上げを支える、代わりのきかない物質です。しかも地球上では貴重で、使えばそのまま宇宙へ逃げていきます。人工的に作ることもできません。

さらに面白いのは、この元素が地球より先に太陽で発見されたという事実です。空を見上げて見つけた元素が、地球で確認されるまでに27年かかりました。

この記事では、ヘリウムがどんな元素なのか、なぜ不思議な性質を持つのか、そしてなぜ世界中で「足りない」と騒がれているのかを、専門用語をかみ砕いてやさしく解説します。

ヘリウムとは?まずは基本プロフィールをチェック

はじめに、ヘリウムがどんな元素なのかを表で確認しておきましょう。

項目内容
元素記号He
原子番号2
周期表での位置第1周期・第18族(貴ガスの先頭)
見た目無色・無臭の気体
沸点約マイナス269℃(全元素で最低)
融点常圧では固まらない(約25気圧が必要)
宇宙での存在量水素に次いで2番目に多い
地球での産出天然ガスから分離(日本は全量輸入)
おもな用途MRIの冷却、半導体製造、光ファイバー、溶接
発見1868年、太陽のスペクトルから
参考:インタラクティブ周期表

宇宙で2番目に多いのに、地球では貴重

ヘリウムは、宇宙全体で見れば水素に次いで2番目に多い元素です。宇宙にある物質の重さのうち、4分の1ほどをヘリウムが占めています。

その大部分は、宇宙が誕生してからわずか数分のあいだに作られたと考えられています。さらに今も、太陽のような恒星の中心で水素が核融合してヘリウムに変わり続けています。太陽では毎秒およそ6億トンもの水素がヘリウムへと姿を変えています。

ところが地球上では話が違います。ヘリウムはあまりに軽いため、大気中に放たれるとそのまま上空へ昇り、最後は宇宙空間へ逃げていってしまうのです。地球の重力では引き止められません。

なぜ何とも反応しないのか

ヘリウムは「貴ガス」と呼ばれる仲間の先頭にいます。原子のまわりを回る電子がちょうど2個で、いちばん内側の席が満席になっているため、ほかの原子と電子をやりとりする理由がありません。だから燃えず、さびず、ほかの物質とほとんど結びつきません。

この「何もしない」という性質こそ、ヘリウム最大の武器です。燃えては困る飛行船、材料を酸化させたくない溶接や半導体の工程、体に触れても安全であることが求められる医療用途。どれもヘリウムでなければ務まりません。

地球のヘリウムはどこから来た?

では、私たちが使っているヘリウムはどこにあるのでしょうか。答えは地下です。

地中のウランやトリウムは、長い時間をかけてアルファ崩壊を繰り返しています。このとき飛び出すアルファ線の正体は、ヘリウムの原子核そのものです。飛び出した原子核が電子をつかまえると、ヘリウム原子になります。

こうして何億年もかけて生まれたヘリウムが、岩の層に閉じ込められ、天然ガスにまじって地下にたまっている。それを掘り出して分離したものが、風船にもMRIにも使われているのです。

放射線とヘリウムがつながっていると聞くと意外に思うかもしれませんが、アルファ線を出す元素の話は、この連載でも何度か登場しています。飛ぶ距離が短いというアルファ線の性質を利用した、がん治療の研究も進んでいます。

ヘリウムが語る、宇宙の始まりの証拠

宇宙にあるヘリウムの量そのものが、宇宙のなりたちを知る手がかりになっています。

理論によれば、宇宙が誕生してから数分のあいだに、水素とヘリウムが一気に作られました。その計算では、できあがった物質の重さのうち、ヘリウムがおよそ4分の1を占めるはずだと予想されます。

そして実際に宇宙のあちこちを観測すると、ヘリウムの割合はどこでもおおむね4分の1でした。星の内部で作られた分だけでは、この量を説明できません。宇宙が熱く密度の高い状態から始まったという考え方を支える、有力な証拠のひとつになっています。

風船を浮かせるありふれた気体が、宇宙の始まりを語る証人でもあるわけです。

地球より先に、太陽で見つかった元素

ヘリウムには、ほかの元素にはない変わった経歴があります。地球で見つかるより前に、空の上で発見されたのです。

1868年、皆既日食の観測

1868年8月18日、インドで皆既日食が観測されました。フランスの天文学者ピエール・ジャンサンは、太陽のふちから噴き出すガスの光を分光器で調べていました。

物質を光らせると、元素ごとに決まった位置に輝線が現れます。このときジャンサンが見つけたのは、どの既知の元素とも一致しない黄色い輝線でした。

同じ年の10月、イギリスのノーマン・ロッキャーも同じ線を観測します。彼はこれを未知の元素によるものと考え、ギリシャ語で太陽を意味するヘリオスにちなんで「ヘリウム」と名づけました。

27年後、地球でも見つかった

とはいえ、地球で実物が確認されない以上、その存在は仮説にすぎません。

決着がついたのは1895年、イギリスのウィリアム・ラムゼーがウランを含む鉱物を酸で処理し、出てきた気体を調べたときです。そこには、あの太陽の黄色い線とぴったり同じ輝線がありました。ほぼ同時期に、スウェーデンの研究者たちも独立に同じ発見をしています。

ちなみに、この鉱物からヘリウムが出てきたのは偶然ではありません。ウランのアルファ崩壊で生まれたヘリウムが、鉱物の中に閉じ込められていたからです。

飛行船が変えたヘリウムの運命

ヘリウムが世界的に重要視されるきっかけをつくったのは、飛行船でした。

20世紀初頭、飛行船に詰められていたのは水素です。ヘリウムより軽く、浮力が大きいからです。しかし水素はよく燃えます。

1937年、ドイツの大型飛行船ヒンデンブルク号がアメリカで着陸しようとした際に炎上し、30人以上が犠牲になりました。この事故は、水素飛行船の時代に事実上の終止符を打ちます。

じつはヒンデンブルク号は、当初ヘリウムを使う前提で設計されていました。しかし当時、ヘリウムをまとまった量で生産できるのはアメリカだけ。アメリカは1920年代に法律でヘリウムを戦略物資と位置づけ、輸出を厳しく制限していたため、ドイツは水素を使わざるをえなかったのです。

現在、飛行船や気象観測の気球に使われるのはヘリウムが基本です。浮力では水素にわずかに劣りますが、燃えないという一点が決定的でした。

アメリカが持っていた「国家ヘリウム備蓄」

ヘリウムがどれほど特別な物資だったかを示すのが、アメリカの国家備蓄です。

アメリカは1920年代から、軍事用の飛行船のために、テキサス州の地下にヘリウムをためこむ制度をつくりました。この備蓄は長いあいだ、世界のヘリウム市場を左右する存在でした。

ところが1990年代、アメリカ政府は備蓄を売却する方針を決めます。大量のヘリウムが市場に流れ、価格は安く保たれました。その反動が出たのが2010年代です。備蓄が減っていくにつれ、価格は何度も急騰しました。備蓄設備は2024年に民間企業へ売却され、国家備蓄の時代は幕を閉じています。

安く手に入る時代が長く続いたため、「ヘリウムは安いもの」という感覚が業界に残っていたことも、その後の混乱を大きくしたと言われています。

絶対零度でも固まらない、たったひとつの元素

ヘリウムは、物理の世界でもきわめて特殊な存在です。

沸点は全元素で最低

ヘリウムが液体になる温度は、約マイナス269℃。絶対零度からわずか4度ほど上という、全元素のなかで最も低い沸点です。

さらに驚くのは、普通の気圧のもとでは、絶対零度まで冷やしても固体にならないこと。固めるには25気圧ほどの圧力をかける必要があります。こんな元素はヘリウムだけです。

原子どうしを引きつけ合う力がきわめて弱いことに加えて、量子力学的な効果によって原子がじっとしていられないためだと説明されています。

超流動という不思議な状態

液体ヘリウムをさらに冷やして約マイナス271℃を下回ると、「超流動」という状態に変わります。

このときヘリウムは、粘り気がまったくない液体になります。細いすきまをするすると通り抜け、容器の壁をひとりでに這い上がってふちを越え、外にこぼれ落ちていく。熱も異常な速さで伝わるため、沸騰しているように泡立っていた液体が、突然しんと静まり返ります。

日常の感覚では理解しがたい現象ですが、これは量子力学の効果が目に見える大きさで現れた、数少ない例として知られています。

何に使われている?

ヘリウムの用途は、風船だけではありません。

MRIと半導体

最大の用途のひとつが、病院のMRIです。MRIは強力な磁石を使いますが、その磁石は超伝導という状態で働いており、極低温に保つ必要があります。そこで液体ヘリウムの出番です。装置1台あたり1000リットル規模のヘリウムが入っています。

半導体の製造でも欠かせません。反応させたくない工程の雰囲気ガスとして、また冷却や検査の用途として使われます。光ファイバーの製造、精密機器の気密検査、アルミなどの溶接、ロケットの燃料タンクの加圧など、産業での使い道は多岐にわたります。

深海に潜るダイバーが吸う混合ガスにも、窒素の代わりにヘリウムが使われます。深いところでは窒素が体に悪影響を及ぼすためです。

量子コンピューターを支えるヘリウム3

ヘリウムには、ヘリウム3というもうひとつの同位体があります。天然にはごくわずかしかない、非常に貴重な存在です。

このヘリウム3とふつうのヘリウム4を混ぜて使うと、絶対零度の数千分の1度という極低温を作り出せます。この技術は、超伝導を利用する量子コンピューターの冷却に欠かせません。

ヘリウム3は月面に多く存在するとされ、将来の核融合燃料として語られることもあります。ただし採掘も核融合の実用化もまだ遠い話で、現時点では夢の段階です。

なぜヘリウムは「足りない」と言われるのか

ここ十数年、ヘリウムは何度も供給不足に陥ってきました。その理由は、この元素の成り立ちそのものにあります。

天然ガスの副産物という宿命

ヘリウムは、天然ガスから分離して取り出すしかありません。しかも、ヘリウムを実用的な濃度で含むガス田は世界でも限られています。

つまり、ヘリウムが欲しいからといって生産量をすぐ増やせません。天然ガスの生産計画に左右される、典型的な副産物なのです。この点は、アルミの副産物として得られるガリウムとよく似た構造です。

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逃げたら二度と戻らない

もうひとつの問題は、使ったあとの行方です。

風船から抜けたヘリウムも、装置から漏れたヘリウムも、空へ昇ってやがて宇宙へ出ていきます。鉄やアルミのように、捨てたものを集めて再生するわけにはいきません。地球上のヘリウムは、実質的に使い捨ての資源なのです。

このため近年は、MRIなどで蒸発したヘリウムを回収して再利用する装置の導入が進んでいます。使わずに済ませる工夫と、逃がさない工夫の両方が求められています。

2026年に起きた供給ショック

供給構造のもろさが、あらためて浮き彫りになったのが2026年でした。

各種の報道によると、2026年2月末から中東で軍事衝突が起き、3月初旬にカタールのラスラファン工業都市にある施設が被害を受けました。カタールエナジーは生産停止と不可抗力を宣言。カタールは世界のヘリウム供給の3割前後を担うとされており、市場は一気に混乱しました。

その後、施設の一部は段階的に再稼働したと伝えられる一方、設備の本格的な復旧には年単位の時間がかかるという見方も出ています。価格は急騰したあと、調達先の分散や在庫の取り崩しによって一時落ち着く場面もありましたが、先行きは不透明なままです。

日本はヘリウムを全量輸入に頼っています。アメリカと中東が主な調達先で、どちらかが止まれば影響は避けられません。風船が店頭から消えるといったわかりやすい現象の裏側で、医療や半導体といった社会の基盤が揺れているのです。

なお、この状況は日々動いています。最新の情報は、信頼できる報道でご確認ください。

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ヘリウムに関するよくある質問

Q. ヘリウムを吸うと、なぜ声が高くなるの?

声帯の震え方が変わるわけではありません。ヘリウムの中では音の伝わる速さが空気の約3倍になるため、のどや口の中で響く音の高さが変わり、声色が変化して聞こえるのです。

なお、パーティーグッズの変声ガスは酸素を混ぜた専用品です。純粋なヘリウムを吸うと酸素が届かなくなり、窒息する危険があります。遊びで使う場合も、必ず市販の専用品を用法どおりに使ってください。

Q. ヘリウム風船はどれくらい浮いている?

ゴム風船なら半日から1日、アルミを蒸着したフィルム風船なら数日から1週間ほどが目安です。ヘリウムの原子はとても小さく、ゴムの分子のすきまからも少しずつ抜けていくため、だんだん浮力を失っていきます。

Q. ヘリウムは燃えないの?

燃えません。ヘリウムは貴ガスの仲間で、ほかの物質とほとんど反応しないからです。かつて飛行船に使われた水素は燃えやすく事故につながりましたが、ヘリウムに置き換えられたのはこのためです。

Q. 人工的に作れないの?

現実的には作れません。原子核の反応でごくわずかに作ることはできても、産業で使う量にはとうてい届きません。地下から掘り出すのが唯一の手段です。空気中にもヘリウムは含まれていますが、その割合は100万分の5ほど。集めようとすると、膨大な電力をかけて空気を液化する必要があり、割に合いません。

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まとめ

最後に、この記事のポイントをおさらいしておきましょう。

  • ヘリウムは原子番号2、宇宙で2番目に多いのに地球では貴重な元素
  • 地球上のヘリウムは、ウランなどのアルファ崩壊で生まれたもの
  • 1868年に太陽のスペクトルで発見され、地球で確認されたのは27年後
  • 常圧では絶対零度でも固まらず、超流動という特殊な状態になる
  • MRIや半導体に不可欠だが、天然ガスの副産物で再生できない資源
  • 飛行船の時代から国家備蓄まで、政治と深く結びついてきた元素でもある

風船を浮かせるガスが、宇宙の始まりを語り、病院の検査装置を冷やし、ロケットを飛ばし、国際情勢に左右される戦略物資でもある。ヘリウムは、身近さと重要さのギャップがいちばん大きい元素かもしれません。

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