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ガリウムとは?手のひらで溶ける金属を初心者向けに解説【31番元素】

ガリウムとは?手のひらで溶ける金属を初心者向けに解説【31番元素】 自然・宇宙・科学

手のひらにのせると、体温でとろりと溶けてしまう金属があります。31番元素ガリウムです。

見た目は銀色の金属の塊。それが手の熱だけで液体に変わる様子は、何度見ても不思議です。しかもこの元素、ただの科学マジックの主役ではありません。スマートフォン、青色LED、急速充電器、人工衛星、がんの検査。私たちの生活は、気づかないうちにガリウムに支えられています。

さらに今、ガリウムは世界でもっとも政治的な金属のひとつになりました。中国による輸出規制で、価格が規制前の3倍に跳ね上がっているのです。

この記事では、ガリウムがどんな元素なのか、なぜ周期表の歴史に残る元素なのか、そしてなぜ今これほど重要になっているのかを、専門用語をかみ砕いてやさしく解説します。

ガリウムとは?まずは基本プロフィールをチェック

はじめに、ガリウムがどんな元素なのかを表で確認しておきましょう。

項目内容
元素記号Ga
原子番号31
周期表での位置第4周期・第13族(アルミニウムの下)
見た目銀白色のやわらかい金属
融点約29.8℃(手のひらで溶ける)
沸点約2400℃
天然での存在単独の鉱床はほぼなく、亜鉛鉱やボーキサイトに微量
おもな産地中国が世界生産の9割以上
おもな用途青色LED、パワー半導体、スマホの高周波部品
発見1875年、ルコック・ド・ボアボードラン
参考:インタラクティブ周期表

体温で溶ける金属

ガリウムの融点は約29.8℃。日本の真夏なら、室内に置いておくだけで溶けてしまう温度です。

人間の体温は36℃前後ですから、手のひらにのせれば数分で液体になります。動画サイトで「ガリウム スプーン」と検索すると、ガリウムで作ったスプーンが紅茶の中でぐにゃりと溶けていく映像が出てきます。あれは合成でもトリックでもなく、そのままの性質です。

ただし、水銀のような毒性はありません。水銀が規制されて姿を消した分野で、ガリウムを使った合金が代わりに使われることもあります。ガリウム、インジウム、スズを混ぜた合金は、マイナス19℃でも液体のままで、体温計やパソコンの冷却材などに利用されています。

液体でいられる温度の幅が、けた外れに広い

もうひとつ面白いのが沸点です。約29.8℃で溶けるのに、気体になるのは約2400℃。つまり、2300℃以上もの幅で液体のままでいられます。

これは元素のなかでも屈指の広さです。高温の温度計に使われたり、真空装置の中で密閉材として使われたりするのは、この性質のおかげです。

ちなみに、ガリウムは凝固点を下回っても液体のままでいることがよくあります。冷やしても固まらず、衝撃を与えたとたんに一気に固まる。そんな気まぐれなところもある元素です。

メンデレーエフの予言を的中させた元素

ガリウムが科学史に名を残しているのは、周期表の正しさを証明した最初の元素だからです。

1871年、「エカアルミニウム」の予言

周期表を作ったドミトリ・メンデレーエフは、表に空いた席を見て、そこに入るはずの未知の元素の性質を細かく予言しました。アルミニウムのひとつ下に入る元素は「エカアルミニウム」と名づけられ、原子量はおよそ68、密度は5.9くらい、融点は低いはずだ、とされました。

当時、これは大胆すぎる主張でした。存在しない元素の性質を、表の並びだけから言い当てようというのですから。

1875年、スペクトルに現れた紫の線

その4年後、フランスの化学者ポール=エミール・ルコック・ド・ボアボードランが、ピレネー山脈で採れた亜鉛の鉱石を調べていました。

物質を高温で光らせると、元素ごとに決まった色の線が現れます。この「スペクトル」を観察していた彼は、これまで報告のない紫色の輝線を2本見つけました。新元素の発見です。彼はこれを祖国フランスのラテン語名ガリアにちなんで「ガリウム」と名づけました。

なお、彼の名前ルコック(Lecoq)はフランス語で雄鶏を意味し、雄鶏はラテン語でgallus。自分の名前をひそかに忍ばせたのではないかという説もありますが、本人は否定しています。

密度は4.7か、5.9か

さて、ここからがこの物語の山場です。

ボアボードランが測ったガリウムの密度は4.7でした。ところが、報告を読んだメンデレーエフから手紙が届きます。「その値は間違っている。5.9くらいのはずだ」という内容でした。

自分が実際に手にして測った値と、会ったこともない研究者が表から計算した値。普通なら実測値を信じるところです。しかしボアボードランは、試料をもう一度精製し直して測定しました。

出てきた数字は5.904。メンデレーエフの予言どおりでした。

この一件で、周期表は「元素を並べた便利な表」から「まだ見ぬ元素を予言できる法則」へと格上げされました。ガリウムは、その転換点に立つ元素なのです。

ガリウムの困った性質

便利な元素ですが、扱いにはクセもあります。

アルミニウムをボロボロにする

液体のガリウムは、アルミニウムの結晶のすきまに入り込み、内部から結合を壊してしまいます。ほんの少し垂らすだけで、丈夫なアルミの缶や板が手で崩せるほどもろくなるのです。

この性質があるため、ガリウムは航空機への持ち込みが制限されています。機体の構造材であるアルミニウムを傷めるおそれがあるからです。金属を溶かす液体、というと危険な薬品を思い浮かべますが、常温の金属がそれをやってのけるわけです。

ガラスを濡らし、凍ると膨らむ

液体のガリウムは、ガラスや皮膚の表面にべったりと広がってくっつきます。水銀が玉になって転がるのとは対照的です。容器選びに気をつかう理由のひとつです。

さらに、固まるときに体積が約3%増えます。水が氷になると膨らむのと同じで、金属としてはめずらしい性質です。ガラス容器に入れたまま凍らせると、容器が割れることもあります。

同じ性質を持つ金属としては、83番元素ビスマスが知られています。凝固すると膨らむ元素は、ごく少数派です。

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現代社会を支える2つの化合物

ガリウムの価値は、金属そのものよりも化合物にあります。

窒化ガリウム(GaN)と青色LED

窒素と結びついた窒化ガリウムは、青色の光を出す半導体になります。

赤と緑のLEDは早くから実用化されていたのに、青だけが長いあいだ作れませんでした。その壁を破ったのが、赤崎勇、天野浩、中村修二の3氏です。高品質な窒化ガリウムの結晶を作る技術を確立し、1990年代に青色LEDを実用化しました。3氏は2014年のノーベル物理学賞を受賞しています。

青が加わったことで、光の三原色がそろい、白色LEDが生まれました。照明や液晶ディスプレイのバックライトが一気に省エネ化したのは、この元素のおかげです。

窒化ガリウムは、電力を扱う半導体としても優秀です。小さくて軽いスマホの急速充電器がここ数年で普及したのは、シリコンより高い電圧や周波数に耐えられる窒化ガリウムが使われるようになったからです。電気自動車やデータセンターの電源でも採用が進んでいます。

ヒ化ガリウム(GaAs)とスマホ・人工衛星

ヒ素と結びついたヒ化ガリウムは、高い周波数の電波を扱うのが得意な半導体です。

スマートフォンの中で電波を送受信する部品や、レーダー、衛星通信などに使われています。5Gの普及で需要はさらに伸びました。

また、ヒ化ガリウムを使った太陽電池は、変換効率が高く放射線にも強いため、人工衛星や宇宙探査機の電源として活躍しています。

病院でも使われるガリウム

ガリウムには、医療で使われる放射性の同位体もあります。

ガリウム67は、炎症やある種の腫瘍に集まる性質があり、シンチグラフィという検査に使われてきました。近年はガリウム68を使ったPET検査が広がり、前立腺がんや神経内分泌腫瘍を見つけるのに役立っています。

面白いのは、この「診断で使う元素」と「治療で使う元素」が組み合わさりつつあることです。ガリウム68でがんの場所を画像にし、同じ性質を持つ薬にアスタチン211などを結びつけて、そこを狙い撃ちする。診断と治療を一続きで考えるやり方が、少しずつ現実になってきています。

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放射線を使った検査という意味では、43番元素テクネチウムが今も主役です。こちらもあわせてどうぞ。

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太陽のニュートリノを捕まえた元素

ガリウムには、もうひとつ意外な経歴があります。宇宙から飛んでくるニュートリノをとらえる実験に、大量に使われたのです。

ニュートリノは物質をほとんどすり抜けてしまう素粒子で、検出がきわめて難しいことで知られています。ところがガリウム71という同位体は、ニュートリノが当たるとゲルマニウム71に変わります。変化した原子を数えれば、飛んできたニュートリノの数がわかるという仕組みです。

1990年代、イタリアのグランサッソ地下研究所では約30トン分のガリウムを含む溶液を使ったGALLEX実験が行われました。ロシアのバクサン地下施設では、約50〜60トンの金属ガリウムを使ったSAGE実験が動きました。どちらも、太陽から届くニュートリノが理論の予想より少ないという「太陽ニュートリノ問題」の解明に貢献しています。

同じ謎に、日本のカミオカンデは水を使って挑みました。地球の反対側にいる研究者たちが、まったく違う元素を使って同じ問いを追いかけていたわけです。

資源としてのガリウム|9割以上を中国が握る

ここ数年、ガリウムは経済安全保障の文脈で語られることが増えました。理由は、その集め方にあります。

ガリウムは地殻にそれなりの量が含まれていますが、濃く集まった鉱床がほとんどありません。ガリウムだけを目的に採掘しても採算が合わないのです。そのため、アルミニウムの原料ボーキサイトを処理する工程や、亜鉛の精錬工程から副産物として回収されます。

つまり、アルミや亜鉛を大量に作っている国でなければ、ガリウムも作れません。その結果、世界の生産の9割以上を中国が占める構造ができあがりました。

どうやって取り出しているのか

ボーキサイトからアルミナを作る工程では、大量のアルカリ溶液が循環しています。ガリウムはこの液の中に少しずつたまっていくため、吸着材や電気分解を使って回収します。取り出せる量は、処理する原料に対してごくわずかです。

さらに半導体に使うには、純度を99.9999%以上という極端な水準まで高めなければなりません。原料が副産物である以上、需要が急に増えても生産をすぐには増やせない。この身動きの取りにくさが、供給不安の根っこにあります。

輸出規制で何が起きたか

2023年8月、中国はガリウムとゲルマニウムの輸出を許可制にしました。2024年12月にはアメリカ向けの輸出を禁止。2025年11月にはこの禁止措置が1年間停止されましたが、許可がなければ輸出できない状態は続いています。

日本も無縁ではありません。2026年に入って日本向けの輸出が一時滞り、数か月ぶりに再開が確認されたのは同年5月のことでした。国際価格は規制前のおよそ3倍という高い水準で推移しています。

日本政府はガリウムを経済安全保障上の重要な物資に位置づけ、調達先の分散や備蓄の検討を進めています。手のひらで溶ける不思議な金属が、いまや国際政治のテーブルに乗っているのです。

もし供給が止まったら、何が困る?

ガリウムが手に入らなくなると、影響はまず半導体に出ます。LED照明、スマートフォンの通信部品、急速充電器、電気自動車の電力制御、データセンターの電源、レーダーや衛星通信。どれも、代わりの材料をすぐに用意できるものではありません。

国際エネルギー機関も、こうした重要な鉱物の供給網のもろさについて繰り返し警告しています。日本政府はガリウムを経済安全保障上の重要物資に指定し、調達先の分散や備蓄の検討を進めているほか、資源国との協力も模索しています。

対策として力が入っているのが、リサイクルと省ガリウム化です。半導体を作る工程では材料の多くが削りくずとして出るため、そこから回収する技術が磨かれてきました。また、高価なガリウムの基板の代わりに、安いシリコンの上へ窒化ガリウムの薄い膜を作る手法も広がりつつあります。使う量を減らす工夫そのものが、立派な資源対策になっているのです。

ガリウムに関するよくある質問

Q. ガリウムは体に害がないの?

金属ガリウムの毒性は低いとされ、水銀のような強い毒性はありません。ただし食品ではないので口に入れるものではありませんし、皮膚についたまま放置するのも避けたほうがよいでしょう。アルミ製品のそばで扱わないことも大切です。

Q. なぜ手の上で溶けるのに、沸点は2400℃もあるの?

溶ける温度は原子の並びの崩れやすさで決まり、沸騰する温度は原子どうしを引き離すのに必要なエネルギーで決まります。ガリウムは結晶の構造が特殊で崩れやすい一方、原子どうしの結びつき自体は強いため、この2つが大きく離れていると考えられています。

Q. なぜガリウムだけの鉱山がないの?

地殻に広く薄く散らばっていて、濃く集まった鉱物がほとんど知られていないからです。ガリウムだけを目当てに掘っても採算が合わないため、ほかの金属を作るついでに回収するのが現実的な唯一の方法になっています。

Q. ガリウムはリサイクルできる?

できます。半導体を作る工程で出る削りくずや、使用済み製品から回収する技術が実用化されています。供給が不安定になったことで、その重要性はさらに高まっています。

Q. ガリウムは買える?

理科教材や実験用として市販されています。ただしアルミニウムを傷める性質があるため、扱いには注意が必要です。飛行機への持ち込みが制限されている点にも気をつけてください。

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まとめ

最後に、この記事のポイントをおさらいしておきましょう。

  • ガリウムは原子番号31、融点約29.8℃で手のひらの熱でも溶ける金属
  • メンデレーエフの予言を的中させ、周期表の信頼性を決定づけた元素
  • 窒化ガリウムは青色LEDと急速充電器を、ヒ化ガリウムはスマホと人工衛星を支えている
  • アルミニウムをもろくする性質があり、航空機への持ち込みは制限されている
  • 太陽ニュートリノをとらえる地下実験にも数十トン単位で使われた
  • 生産の9割以上を中国が占め、輸出規制で価格は規制前の約3倍に

手のひらで溶ける金属が、周期表の正しさを証明し、街の照明を変え、太陽の素粒子をつかまえ、いまは国際的な資源競争の主役になっている。ガリウムは、地味な見た目のわりに劇的な人生を送っている元素だと言えそうです。

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