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ビスマスとは?教科書が書き換わった83番元素を初心者向けに解説【半減期2000京年】

ビスマスとは?教科書が書き換わった83番元素を初心者向けに解説【半減期2000京年】 自然・宇宙・科学

2003年、世界中の化学の教科書が一斉に書き換わりました。「もっとも重い安定な元素」とされてきた83番元素ビスマスが、じつは放射性だと判明したからです。

とはいえ、その半減期はおよそ2000京年。宇宙の年齢の10億倍以上という、気の遠くなる長さでした。

ビスマスは、虹色に輝く不思議な結晶を作り、水のように凍ると膨らみ、重金属なのに毒性が低い。おまけに2025年には価格が一時7倍に跳ね上がり、産業界を揺るがしました。

この記事では、そんな不思議な元素ビスマスの正体を、専門用語をかみ砕いてやさしく解説します。

ビスマスとは?まずは基本プロフィールをチェック

はじめに、ビスマスがどんな元素なのかを表で確認しておきましょう。

項目内容
元素記号Bi
原子番号83
周期表での位置第6周期・第15族(窒素やリンと同じ縦の列)
見た目銀白色でやや赤みがかった光沢のある金属
融点約271℃(金属としてはかなり低い)
天然の同位体ビスマス209のみ
半減期約2.01×10¹⁹年(約2000京年)
おもな産地中国が世界生産の約8割
おもな用途鉛フリーはんだ、低融点合金、胃腸薬、化粧品
名前の由来ドイツ語のweisse Masse(白い塊)
参考:インタラクティブ周期表

鉛のとなりにいるのに、毒性が低い重金属

ビスマスは原子番号83。周期表では82番の鉛のすぐとなりに位置する、重い金属です。

重金属といえば毒性が気になるところですが、ビスマスは例外的に毒性が低いことで知られています。同じ族のヒ素やアンチモン、となりの鉛と比べると、その差は歴然です。このため、鉛の代わりに使える「環境にやさしい重金属」として重宝されてきました。

地殻に含まれる量は、金の2倍ほどとされます。つまり、決してありふれた元素ではありません。

名前の意味は「白い塊」

「ビスマス」という名前は、ドイツ語で「白い塊」を意味するweisse Masseに由来すると言われています。これがWismutとなり、ラテン語風のbisemutumを経て、今の形になりました。

中世のヨーロッパでは、鉱山で採れるビスマスは鉛やスズ、アンチモンと混同されていました。独立した元素であることがはっきり示されたのは1753年、フランスのクロード・フランソワ・ジョフロワによってです。錬金術の時代から人類のそばにいたのに、正体がわかるまでに長い時間がかかった元素なのです。

2003年、教科書が書き換わった日

ビスマスの話でいちばん有名なのが、この「安定神話の崩壊」です。

「いちばん重い安定な元素」という称号

原子核が重くなるほど、その核は壊れやすくなります。ウランやトリウムが放射性なのはそのためです。

そのなかで、ビスマス209は長らく「壊れない核のうち、いちばん重いもの」とされてきました。原子番号83、中性子数126。この126という数は原子核が安定しやすい「魔法数」のひとつで、ビスマスの安定性を支えていると考えられていました。

理論上は、ビスマス209もアルファ線を出してタリウム205に変わるはずだ、という予測は1950年代からありました。しかし1949年から1972年にかけて行われた実験では、その崩壊を誰もとらえられませんでした。予測はやがて忘れられていきます。

3.14メガ電子ボルトの謎の信号

2003年、フランス・オルセーの宇宙天体物理学研究所のチームが、このなぞを解きました。

彼らが使ったのは「シンチレーティング・ボロメーター」という、極低温まで冷やして微弱なエネルギーをとらえる装置です。その温度は絶対零度からわずか0.02度上、20ミリケルビンでした。

おもしろいのは、発見のきっかけです。装置に不純物が混じっていないかを確認していたところ、資料のどこにも載っていないアルファ崩壊の信号に気づいたのです。装置の結晶にはビスマスが含まれていました。

5日間の測定で、128回のアルファ崩壊を記録。エネルギーは3.14メガ電子ボルト。計算の結果、ビスマス209はタリウム205へと崩壊していることが確認されました。この成果は2003年4月、科学誌ネイチャーに発表されています。

半減期は宇宙の年齢の10億倍

そうして求められた半減期が、約1.9×10¹⁹年。のちにイタリアのグランサッソのチームが2.01×10¹⁹年と、より正確な値を報告しています。

日本語の数の単位でいうと、およそ2000京年。宇宙の年齢が約138億年ですから、その10億倍以上という途方もない長さです。

なぜそんなに長い半減期を測れたのかというと、原子の数が膨大だからです。半減期が2000京年でも、実験に使ったビスマス数十グラムのなかには途方もない数の原子が入っています。そのうちのいくつかは、数日のあいだに崩壊してくれるというわけです。

それでも「安定として扱ってよい」理由

放射性だとわかったビスマスですが、実生活ではまったく心配いりません。

崩壊があまりにもまれなので、ビスマスが出す放射線は、私たちの体そのものが出している放射線よりずっと弱いのです。人間の体には天然のカリウム40などが含まれていて、常にわずかな放射線を出しています。ビスマスの放射能はそれ以下。実用上は非放射性の金属として扱われます。

ちなみに、この発見によって「もっとも重い安定な原子核」の座は、鉛208に移りました。

半減期という同じ言葉でも、ここまで幅があるのかと驚かされます。たとえば118番元素オガネソンの半減期は、約0.7ミリ秒。ビスマスとは10の30乗倍近い開きがあります。

あわせて読みたい:
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半減期くらべ|けた違いの世界

同じ「半減期」という言葉が、どれほど広い範囲をカバーしているのかを並べてみましょう。

元素半減期の目安どれくらいの長さか
オガネソン294約0.7ミリ秒まばたきの100分の1以下
ニホニウム278約1.4ミリ秒同じく一瞬
テクネチウム99m約6時間検査を終えるころには減っている
アスタチン211約7.2時間作ったその日に使い切る
テクネチウム99約21万年核のごみとして長く残る
ビスマス209約2000京年宇宙の年齢の10億倍以上

ミリ秒から京年まで、30けた以上の開きがあります。そして面白いことに、短いほうにも長いほうにも使い道があります。すぐ消えるからこそ体に入れても安心な医療用の元素があり、ほとんど壊れないからこそ安心して手に取れるビスマスがある。

寿命の長さそのものに良いも悪いもなく、目的に合っているかどうかがすべてなのです。

水と同じで、凍ると膨らむ金属

ビスマスには、もうひとつ変わった性質があります。液体から固体になるとき、体積が増えるのです。

ほとんどの物質は冷やして固まると縮みます。水が氷になると膨らんで氷が水に浮くのは、よく知られた例外です。ビスマスは、金属では数少ないその仲間なのです。

この性質は実用面でも役に立ってきました。凝固するときに膨らむため、型のすみずみまで金属が行きわたるのです。かつて活字を作る合金にビスマスが使われたのは、この性質のおかげでした。

融点が約271℃と低いことも特徴です。スズやインジウムなどと混ぜると、さらに低い温度で溶ける「低融点合金」になります。60℃前後で溶ける合金もあり、火災報知器やスプリンクラーの感熱部、電気回路のヒューズなどに使われてきました。熱で溶けることが、そのまま安全装置として働くわけです。

磁石をいちばん嫌う金属

ビスマスは、金属のなかでもっとも強い反磁性を示すことでも知られています。反磁性とは、磁石を近づけると逆向きの磁力が生まれて反発する性質のことです。強力な磁石とビスマスの板を組み合わせると、磁石を空中に浮かせる実験もできます。

さらに、電気を通す金属なのに熱を伝えにくいという変わった特徴もあります。金属のなかでは、水銀に次いで熱伝導率が低い部類です。

電気や磁気に対する反応が独特なため、ビスマスは物理学の実験材料としてもよく登場します。磁場の中で電圧が生じる「ホール効果」の研究に使われてきたのも、その一例です。

虹色に輝くホッパー結晶

インターネットで「ビスマス」と検索すると、虹色に輝く四角い迷路のような結晶の写真が出てきます。

あれは天然の鉱物ではなく、溶かしたビスマスをゆっくり冷やして作った人工の結晶です。階段状に成長する形は「ホッパー結晶」と呼ばれます。

虹色に見えるのは、表面にできた薄い酸化被膜が光を干渉させるためです。シャボン玉や水面に浮いた油が色づいて見えるのと同じ原理で、被膜の厚さによって見える色が変わります。金属そのものが虹色なのではなく、ごく薄い膜が色を作り出しているのです。

鉛の代わりとして引っぱりだこ

近年のビスマス需要を押し上げているのが、鉛の代替という役割です。

電子機器で使われるはんだは、かつて鉛とスズの合金が主流でした。しかし環境規制によって鉛の使用が制限され、ビスマスを加えた鉛フリーはんだが広く使われるようになりました。

金属を削りやすくするための添加剤としても、鉛の代わりにビスマスが使われます。水道の蛇口などに使う真ちゅうも、鉛フリー化が進むなかでビスマス入りのものが増えました。

このほか、釣りのおもりや散弾など、環境中にばらまかれる用途でも鉛からの置き換えが進んでいます。重くて毒性が低いというビスマスの個性が、そのまま強みになっているのです。

胃腸薬にも、化粧品にも

ビスマスは医薬品の世界でも長く使われてきました。

日本では次硝酸ビスマスや次没食子酸ビスマスが、下痢止めの成分として使われています。欧米では、ピロリ菌を除菌する治療にビスマス製剤を組み合わせる方法もあります。

アメリカでは、次サリチル酸ビスマスを主成分とするピンク色の胃腸薬が定番商品として知られています。

化粧品では、オキシ塩化ビスマスという化合物が活躍しています。真珠のような光沢を出す顔料として、ファンデーションやアイシャドウに配合されているのです。

「重金属が薬や化粧品に入っている」と聞くと驚くかもしれませんが、ビスマス化合物は水に溶けにくく、体に吸収されにくいという性質があります。ただし、大量に長期間とり続けた場合の健康被害は報告されているので、市販薬は用法・用量を守って使ってください。

いま起きていること|価格が一時7倍に

そんなビスマスが、いま資源として注目されています。

ビスマスは、鉛や銅を精錬するときの副産物として取り出されるのが一般的で、単独で採掘されることはほとんどありません。そして生産の約8割を中国が占めています。

2025年2月4日、中国はアメリカの関税措置への対抗として、ビスマスを含む複数の金属を輸出規制の対象にしました。すると国際価格が急騰します。欧州の取引価格は規制前の1ポンド6ドル前後から、3月には40ドルを超えて史上最高値を更新。日本国内の価格も、キロあたり2000円前後から1万2000円程度まで跳ね上がりました。

2026年に入ってからも、国際相場は20ドル前後で推移しています。ピーク時よりは落ち着いたものの、規制前の3倍を超える水準です。日本の2025年の輸入量は前年から約半減し、国内メーカーのなかには、ビスマスの使用量を減らす製品開発に乗り出すところも出てきました。

鉛の代わりとして需要が伸びているのに、供給は鉛や銅の精錬に左右される。この構造が、価格の振れ幅を大きくしています。

ビスマスはどこで生まれた?

地球にあるビスマスは、太陽系ができるより前に、どこかの星の中で作られたものです。

重い元素の多くは、恒星の内部で中性子を少しずつ取り込んでいく「s過程」というしくみで生まれます。原子核が中性子を吸収し、ときどきベータ崩壊をはさみながら、ゆっくりと重くなっていくのです。

そして、このs過程がたどり着ける、いちばん重い場所がビスマス209です。ここから先へ進もうとしても原子核が壊れてしまい、鉛に引き戻されてしまいます。つまりビスマスは、星がコツコツと元素を積み上げていく道のりの終着点にあたります。

星の中で元素が作られている動かぬ証拠を人類が初めてつかんだのは、43番元素テクネチウムの観測でした。ビスマスは、その同じしくみが行き着いた先にいる元素なのです。

あわせて読みたい:
テクネチウムとは?人類が初めて作った元素を初心者向けに解説

新しい元素を作るときの「的」にもなる

最後に、この連載らしい話をひとつ。

ビスマスは、新元素づくりの現場でも主役級の脇役です。日本が113番元素ニホニウムを合成したとき、標的に使われたのがビスマス209でした。そこに亜鉛70をぶつけて、113番元素を生み出したのです。

また、がん治療で注目されるアスタチン211も、ビスマス209にアルファ線を当てて作られます。安定していて、扱いやすく、原子番号が大きい。この3つを兼ね備えたビスマスは、原子核実験の格好の的なのです。

さらに、ビスマス213という放射性の同位体は、アスタチンと同じようにアルファ線を出すため、がん治療の研究にも使われています。

あわせて読みたい:
ニホニウムとは?日本が発見した113番元素をやさしく解説

ビスマスに関するよくある質問

Q. ビスマスの結晶は自分で作れる?

溶かして冷やすだけなので、原理としては可能です。ただし271℃以上に加熱する必要があり、やけどや火災のリスクがあります。市販されている結晶を買うほうが安全です。

Q. 放射性だとわかったのに、なぜ安全なの?

崩壊がめったに起きないからです。ビスマスが出す放射線の量は、私たちの体が自然に出している放射線よりも弱いレベルです。

Q. ビスマスはレアメタル?

日本ではレアメタルのひとつに数えられています。埋蔵量そのものより、鉛や銅の副産物としてしか得られないことと、生産が中国に集中していることが、希少性の理由になっています。

Q. なぜ虹色に見えるの?

表面の酸化被膜が光を干渉させるためです。シャボン玉が虹色に見えるのと同じ原理で、金属そのものに色がついているわけではありません。

まとめ

最後に、この記事のポイントをおさらいしておきましょう。

  • ビスマスは原子番号83、鉛のとなりにいるのに毒性が低い重金属
  • 2003年に放射性であることが判明し、半減期は約2000京年
  • 凝固すると膨らむ性質があり、低融点合金や安全装置に使われる
  • 鉛の代替として需要が伸び、2025年には価格が一時7倍に急騰した
  • 星の中で元素が重くなっていく「s過程」の終着点にあたる
  • ニホニウムやアスタチンを作るときの標的としても使われている

「いちばん重い安定な元素」という称号を失ってもなお、ビスマスは私たちの生活のあちこちで働いています。教科書の記述が変わっても、元素そのものは何も変わらない。科学の面白さが詰まった元素だと言えるでしょう。

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