近年、サイバー攻撃や内部不正による情報漏洩リスクが高まる中、企業が「情報の安全性」を証明することは、取引や事業継続において必須の条件となりつつあります。
そのための国際的な枠組みが「ISMS(情報セキュリティマネジメントシステム)」です。
本記事では、ISMSの基礎知識や認証取得の重要性、プライバシーマークとの違い、そして2022年に改訂された最新規格への対応ポイントについて解説します。
「なぜ今ISMSが必要なのか」「導入にはどのくらいの期間と費用がかかるのか」といった疑問を解決し、自社のセキュリティ体制強化にお役立てください。
ISMS(情報セキュリティマネジメントシステム)とは
ISMS(Information Security Management System)とは、組織が保有する情報資産を様々な脅威から守り、安全かつ適正に管理・運用するための「仕組み」のことです。
単にセキュリティソフトを入れるといった技術的な対策だけでなく、組織全体のルール作りや教育、物理的な入退室管理などを含めた「包括的なリスク管理体制」を指します。
この仕組みが国際的な基準を満たしていることを第三者機関が審査し、証明するのが「ISMS適合性評価制度(ISMS認証)」です。
ISO/IEC 27001およびJIS Q 27001との関係
ISMSを構築する際の基準となるのが、国際規格である「ISO/IEC 27001」です。
これを日本語訳し、日本の国内規格としたものが「JIS Q 27001」になります。
内容に実質的な違いはありません。日本国内の企業が認証を取得する場合、通常はこのJIS Q 27001の要求事項に基づき、審査を受けることになります。
なお、国際規格は2022年に改訂され「ISO/IEC 27001:2022」となり、国内規格もそれに合わせて「JIS Q 27001:2023」が発行されました。これから取得を目指す企業は、この新規格への対応が必要です。
情報セキュリティの3要素(機密性・完全性・可用性)
ISMSが守るべき情報セキュリティには、バランスを維持すべき3つの要素があります。
これを「情報セキュリティの3要素(CIA)」と呼びます。
1つ目は「機密性(Confidentiality)」です。
許可された人だけが情報にアクセスできる状態を指し、アクセス権限の設定やパスワード管理などが該当します。
2つ目は「完全性(Integrity)」です。
情報が正確であり、改ざんされていない状態を指します。Webサイトの改ざん検知や、データのバックアップなどがこれにあたります。
3つ目は「可用性(Availability)」です。
必要な時にいつでも情報を使える状態を指します。システムダウンを防ぐサーバーの二重化や、災害時のBCP(事業継続計画)策定が重要となります。
ISMSでは、これら3つの要素を高いレベルで維持・改善し続けることが求められます。
ISMS認証を取得する重要性と4つの導入メリット
ISMS認証の取得にはコストと労力がかかりますが、それを上回る経営上のメリットがあります。
主な4つのメリットについて具体的に見ていきましょう。
取引先・顧客からの社会的信用の獲得
BtoBビジネスにおいて、ISMS認証は「安心できる取引先」であることの証明書となります。
大手企業や官公庁では、委託先選定の条件としてISMS認証取得を必須とするケースが増えています。
認証を取得していれば、厳しいセキュリティチェックシートの記入が免除されたり、新規取引の審査がスムーズに進んだりする場合があります。
これは、競合他社との差別化を図る上で大きな武器となるでしょう。
リスクマネジメントの強化と事故発生率の低減
ISMS導入のプロセスでは、社内のあらゆる情報資産を洗い出し、それぞれのリスクを評価(リスクアセスメント)します。
「どこに脆弱性があるか」を可視化し、優先順位をつけて対策を打つことで、情報漏洩事故の発生確率を大幅に下げることが可能です。
また、万が一事故が起きた際も、対応手順が明確化されているため、被害を最小限に抑えることができます。
法令遵守(コンプライアンス)体制の確立
個人情報保護法や不正競争防止法など、企業が守るべき法律は年々厳格化しています。
ISMSの規格には、法的要求事項を特定し遵守することが含まれています。
システム的に対策するだけでなく、従業員への教育や誓約書の取り交わしなど、組織全体で法令を守る体制が整うため、無意識の法令違反を防ぐことにつながります。
官公庁入札における加点評価
国や地方自治体の入札案件では、情報セキュリティ対策が入札参加資格や評価点に影響することがあります。
特にIT関連の入札や、個人情報を扱う業務の委託においては、ISMS(ISO/IEC 27001)やPマークの取得が加点対象、あるいは必須要件となるケースが一般的です。
ISMSとPマーク(プライバシーマーク)の違い
よく比較されるのが「Pマーク(プライバシーマーク)」です。
どちらを取得すべきか迷う企業のために、主な違いを比較表にまとめました。
| 項目 | ISMS(ISO/IEC 27001) | プライバシーマーク(Pマーク) |
|---|---|---|
| 保護対象 | 組織が保有する全ての情報資産 (技術情報、顧客リスト、財務情報など) | 個人情報のみ (顧客や従業員の個人データ) |
| 規格の種類 | 国際規格(ISO/IEC 27001) | 日本国内規格(JIS Q 15001) |
| 適用範囲 | 部門ごとの取得が可能 (例:東京本社のみ、システム部のみ) | 原則として全社(法人単位)での取得が必須 |
| 向いている企業 | BtoB企業、IT企業、海外展開する企業 | BtoC企業、個人情報を大量に扱う人材派遣・通販業など |
このように、ISMSは「情報の種類を問わず広範囲」を対象とし、Pマークは「個人情報」に特化しています。
BtoB取引がメインのIT企業であればISMS、一般消費者の個人情報を多く扱うサービス業であればPマーク、といった選び方が一般的です。
最新版ISO/IEC 27001:2022(JIS Q 27001:2023)の変更点
2013年版から約9年ぶりに行われた2022年の改訂では、サイバーセキュリティやクラウドサービスの普及など、現代の脅威に対応するための変更が加えられています。
これから導入する企業は、以下のポイントを押さえておく必要があります。
管理策(セキュリティ対策)の構成変更
旧規格では114項目の管理策がありましたが、新規格では93項目に整理・統合されました。
数は減りましたが、内容はより具体的かつ現代的にアップデートされています。
特に大きな変化は、管理策が以下の4つのテーマ(属性)に再分類されたことです。
- 組織的対策:情報セキュリティの方針、役割分担、情報の分類など
- 人的対策:従業員教育、雇用契約時のスクリーニング、テレワーク規定など
- 物理的対策:オフィスの入退室管理、PCの画面ロック、クリアデスクなど
- 技術的対策:マルウェア対策、データ暗号化、ログ監視など
新規に追加された11の管理策
時代の変化に伴い、新たに11項目の管理策が追加されました。
「脅威インテリジェンス(脅威情報の収集)」、「クラウドサービス利用のセキュリティ」、「データマスキング(個人情報の秘匿化)」などが含まれます。
これにより、従来あいまいにされがちだったクラウド利用時の責任分界点や、高度なサイバー攻撃への備えが明確に求められるようになっています。
ISMS導入における留意点とデメリット
導入はメリットばかりではありません。運用に失敗しないために、あらかじめ留意すべき課題があります。
コストと時間の確保
ISMS認証の取得には、コンサルティング費用や審査費用を含め、数百万円規模の投資が必要になるケースが一般的です。
また、キックオフから認証取得までには、通常6ヶ月〜1年程度の期間を要します。
短期的なコストとして捉えるのではなく、長期的な経営基盤の強化費用として予算化する必要があります。
業務効率とのバランス調整
セキュリティを強化しすぎると、業務効率が低下するというジレンマが発生します。
例えば「パスワードを20桁以上にする」「USBメモリを全面禁止する」といった極端なルールは、現場の反発を招き、形骸化の原因となります。
「守るべき資産の重要度」に応じてルールに強弱をつけ、現場の利便性を損なわない現実的な運用ルールを策定することが成功の鍵です。
形骸化を防ぐ継続的な教育
最も難しいのが「継続」です。
審査の直前だけ書類を整えるような運用では、本質的なリスク対策にはなりません。
従業員への定期的な教育や内部監査を通じて、セキュリティ意識を組織文化として定着させる努力が求められます。
トップマネジメント(経営層)が率先してコミットメントを示し続けることが重要です。
まとめ
ISMS(情報セキュリティマネジメントシステム)は、企業が情報資産を適切に管理し、ステークホルダーからの信頼を獲得するための世界標準のフレームワークです。
2022年の規格改訂により、クラウドセキュリティやサイバー攻撃対策など、より実践的な内容へと進化しました。
導入にはコストや工数がかかりますが、取引拡大やリスク低減といったメリットは、それを補って余りあるものです。
自社の事業規模や取引先の要望に合わせ、ISMSまたはPマークの取得を検討し、組織のセキュリティレベルを一段階引き上げていきましょう。

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