仕事でミスやトラブルが起きたとき、その場しのぎの対応で終わらせていませんか。
根本的な原因を突き止め、再発を確実に防ぐための強力なフレームワークが「なぜなぜ分析」です。
先に結論をお伝えすると、なぜなぜ分析とは、起きた問題に対して「なぜ?」を繰り返し、人ではなく仕組みの中にある根本原因(真因)を突き止めて、再発防止策につなげる手法です。
本記事では、なぜなぜ分析の基礎知識から、ビジネス現場で活用する具体的なやり方、そのまま使える記入フォーマット、失敗しないためのコツまでを分かりやすく解説します。
本質的な問題解決力を身につけたい方は、ぜひ参考にしてください。
なぜなぜ分析とは?問題解決を根本から導く思考法
日々の業務において、私たちは様々なトラブルに直面します。
その際、素早く解決策を打つことも大切ですが、同じ過ちを繰り返さない仕組み作りが何よりも重要です。
ここでは、本質的な課題解決をサポートする「なぜなぜ分析」の基本的な概念について解説します。
トヨタ生産方式から生まれたフレームワーク
なぜなぜ分析は、日本が世界に誇る製造業の雄であるトヨタ自動車で培われた「トヨタ生産方式(TPS)」の現場で磨かれてきた考え方です。
トヨタ生産方式を体系化した人物として知られるのが、トヨタ自動車工業(現・トヨタ自動車)の元副社長である大野耐一氏です。
大野氏は1978年に刊行した著書『トヨタ生産方式』の中で、「5回のなぜ」を繰り返すことの大切さを紹介しており、これが現在のなぜなぜ分析の原点として広く引用されています。
製造現場で機械の停止や不良品の発生といった問題が起きた際、「なぜその事象が起きたのか」という問いかけを何度も繰り返すことで、見えづらい根本原因を探り当てることを目的としています。
現在では製造業という枠組みを飛び越え、IT業界やサービス業、医療、さらには個人のタスク管理に至るまで、幅広いビジネスシーンで活用されている汎用性の高い思考法です。
世界中の企業が取り入れており、英語圏では「5 Whys」という名称で親しまれています。
表面的な原因ではなく真因を特定する目的
トラブルが発生したとき、目に見える現象だけを捉えて対策を打つのは非常に危険です。
例えば、「システムがダウンした」という問題に対し、「再起動して復旧させた」というのは単なる対症療法に過ぎません。
なぜなぜ分析の最大の目的は、現象の裏に隠れている本当の原因、すなわち「真因」を見つけ出すことにあります。
表面上の理由で満足してしまうと、時間の経過とともに全く同じ問題が再発する可能性が高いでしょう。
「なぜ」という問いを複数回繰り返すことで、プロセスや仕組みに潜む脆弱性をあぶり出していきます。
真因にアプローチする対策を講じて初めて、トラブルを未然に防ぐ強固な体制を築くことができるのです。
「原因」と「真因」の違い
なぜなぜ分析を理解するうえで、最初に押さえておきたいのが「原因」と「真因」の違いです。
原因とは、問題を直接引き起こした出来事のことで、ひとつの問題に対して複数見つかるのが普通です。
一方の真因は、数ある原因の中でも「そこに手を打てば同じ問題が起きなくなる」という、おおもとの原因を指します。
「請求書の金額を間違えた」という問題であれば、「入力時に桁を打ち間違えた」は原因、「入力した金額を元データと照合する工程がなかった」は真因にあたります。
原因に対して打つ手は「応急処置」、真因に対して打つ手は「再発防止策」だと考えると、区別しやすくなるでしょう。
なぜなぜ分析と他の問題解決手法の比較
ビジネスの現場には、課題を解決するための様々なフレームワークが存在します。
それぞれの特性を理解し、状況に応じて最適なツールを選択することが、迅速な改善への近道となります。
ここでは、よく使われる代表的な手法との違いを見ていきましょう。
比較表で見る各手法の特徴と使い分け
問題解決に用いられる「なぜなぜ分析」「ロジックツリー」「特性要因図(フィッシュボーンチャート)」の3つについて、それぞれの特徴と適したシチュエーションを比較表にまとめました。
| 手法名 | 目的・特徴 | 適したシチュエーション |
|---|---|---|
| なぜなぜ分析 | ひとつの問題に対して「なぜ」を繰り返し、一直線に深掘りして根本原因を特定する。 | すでに発生した特定のトラブルやミスの原因を究明し、再発を防止したい場合。 |
| ロジックツリー | 問題をツリー状に分解し、網羅的に要素を洗い出す。全体像の論理的な把握に優れる。 | 複雑な課題を整理したい場合や、解決策の選択肢を幅広くリストアップしたい場合。 |
| 特性要因図 | 結果(特性)に対する要因を魚の骨のように視覚化し、考えられる原因を細かく分類する。 | 複数の要因が複雑に絡み合っている問題について、チーム全体でブレインストーミングを行う場合。 |
このように、起きてしまった事象をピンポイントで深掘りするなら、なぜなぜ分析が適しています。
一方で、課題全体を俯瞰したい場合はロジックツリーなどを併用すると、より多角的な視点を持つことができるでしょう。
「広げる手法」と「掘る手法」を組み合わせる
3つの手法は、どれかひとつを選ぶものではなく、組み合わせて使うことで効果が高まります。
特性要因図やロジックツリーは、考えられる要因を漏れなく「広げる」ための道具です。
なぜなぜ分析は、その中から事実で裏づけられた要因を選び、深く「掘る」ための道具だと言えます。
原因の見当がまったくつかないトラブルでは、まず特性要因図で要因を洗い出し、現場で事実を確認して候補を絞ってから、なぜなぜ分析に進むとスムーズです。
要因を洗い出す段階では、「漏れなく、ダブりなく」整理するMECEの考え方が役立ちます。
MECE(ミーシー)とは?意味や使い方、実務で役立つ具体例や演習ワークを徹底解説なぜなぜ分析をビジネスや現場で活用するメリット
単に「原因を考える」という日常的な行為を、あえてフレームワーク化して実践することには大きな意味があります。
チームや組織になぜなぜ分析の文化が定着することで、どのようなポジティブな変化がもたらされるのかを詳しく解説します。
対症療法を防ぎ確実な再発防止につながる
もっとも大きなメリットは、同じ問題の再発を防げる可能性が大きく高まる点です。
仕事が忙しいと、つい「とりあえず動くように直す」「その場でお詫びをして終わらせる」といった絆創膏を貼るような対応に終始しがちです。
しかし、その場しのぎの対応を繰り返していると、いずれ取り返しのつかない大きなクレームや事故に発展するリスクを抱えたままになります。
なぜなぜ分析を活用すれば、発生した事象の背後にある「システムのエラー」や「ルールの欠陥」にまで到達できます。
根本的な仕組みを改善することで、同じミスが起きにくい環境を作り上げることができるのです。
組織全体の論理的思考力と課題解決力が向上する
なぜなぜ分析をチームで日常的に行うようになると、メンバー一人ひとりの思考プロセスに大きな変化が現れます。
直感や思い込みで判断するのではなく、客観的な事実に基づいて「原因と結果の法則」を筋道立てて考える習慣が身につきます。
「なぜこうなったのか?」と問いかける姿勢は、トラブル時だけでなく、新しい企画を立てる際や業務効率化を考える場面でも非常に役立ちます。
結果として、組織全体の論理的思考力(ロジカルシンキング)が底上げされ、自律的に課題を発見し解決できる強いチームへと成長していくでしょう。
業務プロセスのムダや属人化を可視化できる
原因を深掘りしていくプロセスでは、普段は意識していない業務フローの細部を言語化する必要があります。
その過程で、「この確認作業は誰もチェックしていなかった」「担当者のAさんにしか分からない手順が存在する」といった、プロセス上の欠陥や属人化が浮き彫りになることが多々あります。
なぜなぜ分析は、単なるトラブルシューティングにとどまりません。
問題を通じて現在の働き方そのものを見つめ直し、不要な工程を削減したり、マニュアルを整備したりする絶好の機会を提供してくれます。
トラブルをピンチではなく、組織をより良くするためのチャンスに変えることができる優れたアプローチだと言えます。
実践に向けたなぜなぜ分析の正しいやり方
ここからは、実際に現場でなぜなぜ分析を行う際の手順を解説します。
全体の流れは、次の5ステップです。
- 発生した問題を具体的に定義する
- 問題が起きた現場と現物を直接確認する
- 「なぜ」を繰り返し原因を深掘りする
- 根本原因である真因を特定する
- 改善策と再発防止策を立案し、標準化する
正しいステップを踏まなければ、見当違いの結論にたどり着いてしまう恐れがあるため、一つひとつの工程を丁寧に確認していきましょう。
発生した問題を具体的に定義する
まずは、出発点となる「解決すべき問題」を明確に設定します。
この時、抽象的な表現や曖昧な言葉を使うのは避けてください。
例えば、「作業ミスが増えた」という漠然とした定義では、その後の「なぜ」が広がりすぎてしまい、焦点を絞ることができません。
「今月、発注システムへのデータ入力漏れが3件発生した」といったように、事実を具体的かつ定量的に書き出すことが重要です。
「いつ・どこで・何が・どのくらい」の4点が入っているかを確認すると、定義の抜けに気づきやすくなります。
また、ひとつの文に問題を2つ以上詰め込まないことも大切です。
「納期が遅れ、しかも数量も間違っていた」のような場合は、「納期遅れ」と「数量間違い」に分け、別々に分析しましょう。
問題の定義がシャープであればあるほど、原因究明のベクトルが定まり、精度の高い分析が可能になります。
問題が起きた現場と現物を直接確認する
問題の定義ができたら、すぐに会議室で話し合いを始めるのではなく、必ず「現場」へ足を運んでください。
トヨタでは、現場に足を運んで実物を自分の目で確かめる姿勢を「現地現物」と呼び、大切な価値観として受け継いでいます。
よく似た言葉に、ホンダが大切にしている「三現主義(現場・現物・現実)」があり、どちらも机上の議論ではなく事実から出発するという点で共通しています。
データや報告書だけを見て頭で考えても、思い込みによる推論に陥ってしまう危険性が高いです。
実際に問題が起きた場所に行き、関係する機械やソフトウェア、帳票などを直接目で見て、当時の状況を正確に把握しましょう。
オフィスワークやITの仕事であれば、操作ログ、メールやチャットの履歴、実際の入力画面、当時使っていた手順書などが「現物」にあたります。
事実に基づかない分析は砂上の楼閣に過ぎず、どれだけ論理を積み上げても意味がありません。
なぜを繰り返し原因を深掘りする
事実関係を把握したら、いよいよ「なぜ?」という問いかけをスタートさせます。
定義した問題に対して、「なぜそれが起きたのか?」と問い、出てきた答えに対してさらに「では、なぜその状況になったのか?」と繰り返していきます。
一般的には「5回繰り返す」と言われていますが、数字自体に固執する必要はありません。
3回で根本原因にたどり着くこともあれば、7回深掘りしなければならないケースも存在します。
ひとつの「なぜ」に対して答えが2つ以上あるときは、無理にひとつへ絞らず、枝分かれさせてそれぞれを深掘りしてください。
答えを書くときは、「確認不足だったから」のような曖昧な言葉ではなく、「出荷前に品番を照合する手順がなかったから」のように、主語と述語がはっきりした短い一文にするのがポイントです。
大切なのは、表面的な言い訳で立ち止まらず、自分たちがコントロールできる仕組みの問題に行き着くまで問いを止めないことです。
根本原因である真因を特定する
「なぜ」を繰り返していくと、これ以上は掘り下げられない、あるいは掘り下げる意味がないポイントに到達します。
そこが、問題の根本原因である「真因」です。
真因を見極める基準としては、「その原因を取り除けば、確実に問題が再発しなくなるか」という視点を持ちましょう。
もし、対策を打っても別の形で同じようなミスが起きそうだと感じるなら、まだ深掘りが足りていない証拠です。
反対に、「会社の方針が悪い」「業界全体の構造の問題だ」といった、自分たちでは手の打ちようがないところまで進んでしまった場合は掘りすぎです。
ひとつ手前に戻り、具体的な対策が打てる段階を真因として扱いましょう。
チーム全体で議論し、誰もが納得できる真因を見つけ出すまで粘り強く思考を続ける姿勢が求められます。
具体的な改善策と再発防止策を立案し標準化する
真因が特定できたら、それを取り除くための具体的なアクションプランを策定します。
「気をつける」「ダブルチェックを徹底する」といった精神論や、人に依存する対策は好ましくありません。
「入力漏れがあるとシステムが次に進まないように改修する」「必要な道具の置き場所を固定し、誰でもすぐに見つけられるようにする」など、物理的・システム的な仕組みで解決する策を考えます。
対策には「誰が・いつまでに・何をするか」を必ず添え、実施後に同じ問題が起きていないかを一定期間確認するところまでを計画に含めてください。
そして、効果が確認できた対策はマニュアルに落とし込み、関係者全員が同じ手順で作業できるように「標準化」することがゴールとなります。
なぜなぜ分析の書き方とフォーマット(記入例つき)
なぜなぜ分析に、決まった公式の様式はありません。
ただし、頭の中や口頭だけで進めると論理の飛躍に気づきにくいため、必ず紙やExcel、ホワイトボードに書き出して進めましょう。
最低限そろえたい記入項目
初めて取り組む場合は、次の項目を並べたシンプルな表から始めるのがおすすめです。
| 項目 | 書く内容 | 記入例 |
|---|---|---|
| 問題 | いつ・どこで・何が・どのくらい起きたか | 10月の請求書のうち2件で、金額を1桁多く記載して送付した。 |
| 事実確認 | 現場・現物で確かめたこと | 金額は担当者が見積書を見ながら手入力しており、照合の記録は残っていなかった。 |
| なぜ1〜 | ひとつ上の事象を直接引き起こした原因を、短い一文で | 請求システムに見積データを取り込めず、金額を手入力していたから。 |
| 真因 | 対策が打てる仕組み上の原因 | 見積データを請求システムへ連携する仕組みがなく、手入力した金額を見積書と照合する工程も手順書に定められていなかった。 |
| 再発防止策 | 仕組みで防ぐ対策 | 見積データを請求システムへ連携し、手入力をなくす。連携できない請求は、送付前に見積書と照合する工程を手順書に加える。 |
| 担当・期限 | 誰が、いつまでに実施するか | 経理課の担当者が、11月末までに実施する。 |
| 効果確認 | 再発していないかを確かめる方法と時期 | 12月と1月の請求書で、金額の誤りが0件であることを確認する。 |
「なぜ」の行は、必要な回数だけ増やして構いません。
「発生原因」と「流出原因」の2つの視点で掘る
品質管理の現場では、ひとつの問題を「なぜ発生したのか」と「なぜ見逃して外に出てしまったのか」の2方向から分析する方法がよく使われます。
前者を発生原因、後者を流出原因と呼びます。
先ほどの請求書の例であれば、「なぜ金額を打ち間違えたのか」が発生原因、「なぜ誤った請求書がそのまま送付されたのか」が流出原因を探る問いです。
ミスの発生そのものを完全になくすのは難しくても、流出を止める仕組みがあれば、お客様に迷惑をかける前に食い止められます。
両方の視点で対策を用意しておくと、再発防止の確実性がぐっと高まります。
なぜなぜ分析を成功に導く重要なコツと注意点
手法自体は非常にシンプルですが、実際にやってみると意外と難しいことに気づくはずです。
分析の精度を高め、効果的な解決策を導き出すために、いくつか押さえておくべき重要なコツを紹介します。
個人の責任を追及せず仕組みに目を向ける
分析の過程で絶対にやってはいけないのが、「誰がミスをしたのか」という犯人探しです。
「なぜAさんは確認を怠ったのか」といった個人の責任を追及する方向に進むと、当事者は自己保身に走り、本当の事実を隠そうとしてしまいます。
人は誰しもミスをする生き物だという前提に立ち、「なぜミスが起きるような仕組みになっていたのか」へ焦点を当てるべきです。
問いの主語を「人」から「作業」や「仕組み」に置き換えるだけでも、場の空気は大きく変わります。
「なぜあなたは確認しなかったのか」ではなく、「なぜ確認が行われない手順になっていたのか」と問いかけるイメージです。
ITの分野でも、Googleが公開しているSRE(サイト信頼性エンジニアリング)の資料の中で、個人を責めずに障害へつながった要因に目を向ける「非難なきポストモーテム(事後検証)」という考え方が紹介されています。
プロセスや環境の不備を徹底的に洗い出すスタンスを共有することで、建設的な議論が可能になります。
なぜの飛躍を防ぎ論理のつながりを確認する
問いと答えの間にある因果関係が論理的に繋がっているかを、常に意識しながら進める必要があります。
例えば、「なぜ納期が遅れたのか?」に対する答えが「予算が少なかったから」だとすると、間にいくつかの論理が飛躍してしまっています。
「納期が遅れた」→「作業に想定以上の時間がかかった」→「リソースが不足していた」→「追加人員を配置する予算がなかった」というように、一段ずつ丁寧に階段を降りていくイメージを持ってください。
飛躍があると、見当違いの対策を立ててしまう原因となります。
逆から読んで意味が通じるかチェックする
分析が最後まで終わったら、導き出した論理が正しいかどうかをテストしてみましょう。
一番下の「真因」からスタートして、「だから〜になった」という接続詞で順に上へ登っていきます。
「真因があった」→「だから、この原因が起きた」→「だから、最終的な問題が発生した」というように、逆方向に読んで意味がスムーズに通じれば、論理の組み立ては間違っていません。
もし少しでも違和感を覚える箇所があれば、そこにはまだ見落としている要因が潜んでいる可能性があります。
当事者を交えた少人数で、進行役を立てて行う
なぜなぜ分析は一人でも行えますが、業務上のトラブルを扱うときは、複数人で取り組むほうが思い込みに気づきやすくなります。
メンバーには、実際にその作業を担当している人と、前後の工程を知っている人を必ず入れてください。
現場を知らない人だけで進めると、事実ではなく推測を積み上げた分析になってしまうからです。
あわせて、議論が犯人探しに傾いたときに軌道修正する進行役を一人決めておくと安心です。
進行役は、当事者の直属の上司ではなく、利害関係の少ない第三者が務めると、当事者が事実を話しやすくなります。
なぜなぜ分析の失敗例とよくある落とし穴
どれほど気をつけていても、慣れないうちは陥りやすいパターンが存在します。
ここでは、現場でよく見られる失敗例を取り上げ、どうすれば回避できるのかを解説します。
感情的な理由や意識不足を原因にしてしまう
「なぜ入力ミスをしたのか?」という問いに対し、「焦っていたから」「不注意だったから」「やる気が足りないから」といった、個人の感情や意識状態を答えにしてしまうケースは非常に多いです。
しかし、これらを原因としてしまうと、対策が「次から気をつける」「モチベーションを上げる」といった根性論に着地してしまいます。
これでは再発防止には全く繋がりません。
「なぜ焦るようなスケジュールになっていたのか」「なぜ不注意でもミスがすり抜けてしまうのか」と、もう一歩踏み込んで仕組みの問題へと転換する必要があります。
コントロール不可能な事象を真因にする
「天候が悪かったから」「他部署の対応が遅かったから」「顧客の気が変わったから」といった、自分たちの力ではどうにもならない事象を行き止まりにしてしまうのも典型的な失敗です。
確かにそれらは要因の一つかもしれませんが、そこで思考を止めてしまうと改善の余地がなくなってしまいます。
「天候が悪くなることを見越したスケジュール調整がなぜできなかったのか」「他部署の遅れを早期に検知するアラート機能がなぜなかったのか」というように、自部署のコントロール範囲内で打てる対策を探る姿勢が欠かせません。
最初から原因を決めつけ都合の良い結論に誘導してしまう
分析を始める前から、「原因はどうせアレだろう」と見当をつけてしまうことは避けましょう。
自分たちが都合の良い、あるいは実行しやすい対策に落とし込むために、後付けで「なぜ」のストーリーを作ってしまうケースです。
これでは事実に基づいた分析ではなく、単なる「答え合わせ」になってしまい、本当の脆弱性を見逃してしまいます。
先入観を捨て、現場の事実とデータに謙虚に向き合いながら、白紙の状態から原因を積み上げていく客観性が求められます。
原因をひとつに絞り込みすぎてしまう
なぜなぜ分析は一直線に深掘りしていく手法のため、「真因はひとつだけ」と思い込んでしまいやすい点にも注意が必要です。
実際のトラブルは、複数の要因が重なって起きていることが少なくありません。
2017年に医療安全分野の学術誌『BMJ Quality & Safety』に掲載された論文でも、「5 Whys」は複雑な問題を単純化しすぎるおそれがあると指摘されています。
なぜなぜ分析は万能の道具ではなく、得意・不得意があると理解したうえで使うことが大切です。
要因が複雑に絡むトラブルでは、枝分かれを認めて複数の真因を並べる、特性要因図で全体を見渡してから深掘りする、といった工夫で弱点を補いましょう。
なぜなぜ分析の活用シチュエーションと具体例
理論を学んだところで、実際のビジネスシーンでどのように活用されているのか、具体的な事例を見ていきましょう。
業種や職種を問わず応用できることを実感していただけるはずです。
製造現場での機械トラブルにおける原因追及
大野耐一氏の著書で紹介されている、非常に有名で分かりやすい製造現場の例を紹介します。
ある工場で、機械が突然ストップしてしまったという事象に対する分析です。
- 問題の定義:機械が動かなくなった
- なぜ(1回目):なぜ機械は止まったのか? → オーバーロードがかかり、ヒューズが切れたからだ。
- なぜ(2回目):なぜオーバーロードがかかったのか? → 軸受部の潤滑が十分でなかったからだ。
- なぜ(3回目):なぜ十分に潤滑しなかったのか? → 潤滑ポンプが油を十分にくみ上げていなかったからだ。
- なぜ(4回目):なぜ十分にくみ上げなかったのか? → ポンプの軸が摩耗してガタガタになっていたからだ。
- なぜ(5回目):なぜ摩耗したのか? → 濾過器(ストレーナー)がついておらず、金属の切粉が入ってしまったからだ。
- 対策:濾過器を取り付ける。
もし1回目の「なぜ」で止まっていたら、単にヒューズを交換するだけで終わり、すぐにまた機械は止まっていたでしょう。
5回繰り返すことで、本当の真因(濾過器がないこと)にたどり着いた好例です。
参考:『トヨタ生産方式 脱規模の経営をめざして』大野耐一 著(ダイヤモンド社)
オフィス業務でのヒューマンエラーや連絡ミス
次に、現代のオフィスワークでよく起こりがちな、情報共有のミスに関する分析例を見てみます。
- 問題の定義:クライアントへの重要書類の発送が期日より1日遅れた
- なぜ(1回目):なぜ発送が遅れたのか? → 担当者のBさんが、今日が期日であることを忘れていたから。
- なぜ(2回目):なぜBさんは期日を忘れていたのか? → スケジュール管理ツールにタスクとして登録されていなかったから。
- なぜ(3回目):なぜツールに登録されていなかったのか? → 営業担当のCさんからBさんへ、口頭でしか依頼をしていなかったから。
- なぜ(4回目):なぜ口頭のみの依頼になったのか? → 社内で「依頼時はチャットとツールの両方に入力する」というルールが形骸化していたから。
- なぜ(5回目):なぜルールが形骸化していたのか? → ツールへの入力項目が多すぎて手間がかかり、急ぎの案件だと省略されがちだったから。
- 対策:ツールの入力項目を必須最低限の3つに絞り込み、チャットからワンクリックでタスク生成できる連携機能を導入する。
このように深掘りすることで、「Bさんが悪い」「Cさんの伝え方が悪い」という属人的な責任論を抜け出し、「システムが使いにくい」という根本的な業務環境の改善に結びつけることができます。
仕事のテンプレート化で残業を減らす4ステップ|すぐ使える例とツール比較ITシステムの障害対応における原因追及
最後に、Webサービスの運用現場を想定した例です。
ここでは、ひとつの「なぜ」から原因が枝分かれするパターンを見てみましょう。
- 問題の定義:月曜の午前9時から約30分間、自社のECサイトで商品の購入ができなくなった
- なぜ(1回目):なぜ購入できなくなったのか? → データベースサーバーのディスク容量がいっぱいになり、注文データを書き込めなくなったから。
- なぜ(2回目・発生側):なぜディスクがいっぱいになったのか? → 古いログファイルが削除されず、たまり続けていたから。
- なぜ(3回目・発生側):なぜ削除されなかったのか? → サーバーを入れ替えた際に、ログを自動で削除する設定を移し忘れていたから。
- なぜ(4回目・発生側):なぜ移し忘れたのか? → サーバー入れ替えの手順書に、定期実行の設定を確認する項目がなかったから。
- なぜ(2回目・流出側):なぜいっぱいになるまで誰も気づかなかったのか? → ディスク使用率を監視して通知する仕組みが、新しいサーバーに設定されていなかったから。
- 対策:手順書に「定期実行の設定」と「監視設定」の確認項目を追加する。あわせて、ディスク使用率が一定の値を超えたら担当者に通知が届くよう設定する。
この例では、「設定を移し忘れた担当者の不注意」で終わらせず、手順書と監視という2つの仕組みの穴にたどり着いています。
発生側と流出側の両方に手を打つことで、同じ種類の設定漏れが別のサーバーで起きても、障害になる前に気づけるようになります。
なぜなぜ分析に関するよくある質問
「なぜ」は必ず5回繰り返さないといけませんか?
いいえ、5回という回数はあくまで目安です。
回数を満たすことではなく、「そこに対策を打てば再発を防げる」と言える仕組み上の原因に届いたかどうかで判断してください。
なぜなぜ分析は一人でもできますか?
できます。
自分の仕事のミスや、資格の勉強で間違えた問題の振り返りなど、個人の課題にも応用できる手法です。
ただし、一人だと思い込みに気づきにくいため、書き出した内容を逆から読んで確かめる、時間を置いて見直す、信頼できる人に見てもらうといった工夫を取り入れましょう。
「なぜ?」と聞かれると責められている気持ちになります。どうすればよいですか?
「なぜ?」を人に向けて繰り返すと、聞かれた側は詰問されているように感じてしまいます。
問いの主語を人ではなく作業や仕組みに変える、「何が作業を難しくしていましたか」のように「何が」で尋ねる、分析の目的が犯人探しではないことを最初に全員で確認する、といった方法が有効です。
当事者を一人だけ呼び出して問い詰める形にしないことも、忘れないようにしてください。
なぜなぜ分析が向いていないのはどんな問題ですか?
「売上が伸び悩んでいる」「離職率が高い」のように、要因が多く、範囲の広い慢性的な課題には、なぜなぜ分析だけでは対応しきれません。
こうした課題は、まずロジックツリーや特性要因図で要素を分解し、的を絞ってからなぜなぜ分析を使うのがおすすめです。
なぜなぜ分析が力を発揮するのは、「いつ・どこで・何が起きたか」をはっきり特定できる個別のトラブルです。
まとめ:なぜなぜ分析を活用して本質的な問題解決へ
なぜなぜ分析は、一見シンプルに見えて、非常に奥の深い思考フレームワークです。
「問題の定義を具体的にする」「現場と事実を確認する」「人のせいにせず仕組みを疑う」といった基本ルールを守ることで、その効果は最大限に発揮されます。
表面的な対症療法から抜け出し、同じトラブルを繰り返さない強い組織を作るために、ぜひ日々の業務に「なぜ?」と問いかける習慣を取り入れてみてください。
論理的な思考プロセスを繰り返すことで、あなたの課題解決力は確実にステップアップしていくはずです。
なお、決めた再発防止策を実行し、効果を確かめて次の改善につなげる流れは、PDCAサイクルの考え方と組み合わせると定着しやすくなります。
PDCAサイクルとは?意味と回し方、失敗する原因と対策を事例付きで解説