今年も残すところあとわずかとなりました。カレンダーが最後の一枚になると目にするのが「師走(しわす)」という言葉です。
なんとなく「忙しい時期」というイメージはあっても、なぜ「師」が「走る」のか、具体的にいつからいつまで使える言葉なのか、迷ってしまう方も多いのではないでしょうか。
結論からお伝えすると、師走は「旧暦の12月」を指す言葉であり、その語源は正確には分かっていませんが、「僧侶(師)が仏事のために走り回る」という説が最も広く知られています。
この記事では、師走の正しい意味や語源の真偽、ビジネスや手紙ですぐに使える時候の挨拶まで、分かりやすく解説します。年末の忙しい時期、この記事が少しでもお役に立てば幸いです。
師走の読み方と基本的な意味
師走の読み方は「しわす」です。日本の旧暦(陰暦)における「12月」の異名(別名)として古くから親しまれてきました。
現代のカレンダー(新暦)では12月を指しますが、本来の旧暦と新暦には1ヶ月ほどのズレがあります。そのため、厳密な旧暦の師走は、現在の「1月上旬から2月上旬」にあたる時期です。
しかし現代では、新暦の12月(12月1日〜12月31日)を指して「師走」と呼ぶのが一般的となりました。テレビのニュースで「師走の街」という表現が使われるのも、年末の慌ただしい雰囲気を伝えるためです。
冬の季語としても定着しており、単に「12月」と言うよりも、年の暮れの切迫感や、冬の深まりを情緒的に表現できる言葉といえるでしょう。
「師が走る」は本当?師走の語源と3つの説
「師走」という漢字を見ると、誰かが走っている様子が思い浮かびますよね。実は、この語源には諸説あり、現在でも「これが正解」と断定されているわけではありません。
ここでは、最も有名な説と、学術的に有力とされる説をご紹介します。話のネタとして知っておくと、年末の会話が弾むかもしれません。
師馳す(しはす)説:僧侶が忙しく走り回る
最も有名な説がこれです。平安末期の書物『色葉字類抄(いろはじるいしょう)』にも記述があるほど古くから親しまれています。
昔、12月は各家庭で先祖供養などの仏事を行う習慣がありました。そのため、普段は落ち着いて座っている僧侶(師)でさえも、お経をあげるために東西を馳せ走る(忙しく走り回る)ことから「師馳す(しはす)」となり、それが「師走」に変化したと言われています。
現代の年末の忙しさともイメージが重なるため広く浸透していますが、実はこれは「民間語源(語源俗解)」と呼ばれる俗説であり、学術的には正確な語源ではないという見方が一般的です。後世になって、漢字の意味からこじつけられたものと考えられています。
年果つ(としはつ)説:一年が終わる月
こちらは言葉の響きから変化したという説です。「年が果てる(終わる)」という意味の「年果つ(としはつ)」が、長い年月をかけて「しはす」→「師走」へと変化したと考えられています。
言語学的には、「師馳す」説よりもこちらの方が有力視されることが多いです。「万葉集」の時代にはすでに「シハス」という読み方が存在しており、後に「師走」という漢字が当てられたという見方もあります。
四極(しはつ)説:四季の最後
春夏秋冬の四季が終わりを告げる月、という意味の「四極(しはつ)」から転じたという説です。「極」は極まる、終わるという意味を持ちます。
どの説も「一年の締めくくり」や「忙しさ」を感じさせるものであり、日本人が昔から12月を特別な月として捉えていたことがよく分かります。
師走の類語・別名との比較
12月を表す言葉は「師走」だけではありません。日本語には、季節の情景を美しく切り取った異名がたくさんあります。
それぞれの言葉が持つニュアンスを知ることで、手紙やメッセージの表現の幅がぐっと広がります。主な異名を以下の表にまとめました。
| 異名(読み方) | 意味・ニュアンス |
|---|---|
| 極月(ごくげつ) | 一年の最後の月。「月が極まる」という意味があり、厳粛な響きがあります。 |
| 春待月(はるまちづき) | 来たるべき春を待ち望む月。冬の寒さの中にも希望を感じさせる言葉です。 |
| 苦寒(くかん) | 一年の中で最も寒さが厳しい時期を表します。 |
| 臘月(ろうげつ) | 「臘」はつなぐという意味。古い年から新しい年へとつなぐ月を指します。 |
このように比較すると、「師走」は「忙しさ」に焦点を当てているのに対し、「春待月」は「未来への希望」、「極月」は「終わり」を強調していることが分かります。
相手に送るメッセージの内容や相手との関係性に合わせて、これらの言葉を使い分けてみるのも粋ですね。
ビジネスや手紙で使える「師走」の時候の挨拶と例文
「師走」は、12月の手紙やビジネスメールの冒頭で「時候の挨拶」として頻繁に使われます。しかし、12月ならいつでも使っていいわけではありません。
適切な使用時期は、12月上旬から中旬(20日頃)までです。
下旬になると「年末」や「歳末」といった言葉の方がしっくりくるため、クリスマスを過ぎたあたりからは表現を変えるのがマナーとされています。ここでは、相手別にそのまま使える例文をご紹介します。
「年末の候」はいつからいつまで?正しい使用時期とビジネス例文・マナー
ビジネスで使える改まった挨拶
ビジネス文書では「師走の候(こう)」や「師走の折」という定型句を使うのが一般的です。
【例文1:基本の挨拶】
拝啓
師走の候、貴社におかれましては益々ご清栄のこととお慶び申し上げます。
平素は格別のご高配を賜り、厚く御礼申し上げます。
【例文2:忙しさを気遣う挨拶】
拝啓
師走の候、ご多忙の折とは存じますが、皆様いかがお過ごしでしょうか。
本年は多大なるご支援をいただき、誠にありがとうございました。
親しい相手への柔らかい挨拶
友人や知人、親しい取引先へ送る場合は、少し表現を崩して季節感を出すと、温かみのある文章になります。
【例文3:寒さを気遣う挨拶】
カレンダーも最後の一枚となりましたが、〇〇様はいかがお過ごしでしょうか。
師走に入り寒さも厳しくなってまいりましたが、お変わりありませんか。
【例文4:一年を振り返る挨拶】
師走の風が冷たく感じられる今日この頃、皆様お元気にお過ごしでしょうか。
今年も残すところあとわずかとなりましたね。
師走を詠んだ有名な俳句と情景
「師走」は冬の季語であり、多くの俳人たちがこの時期独特の空気感を句に詠んでいます。
忙しない雰囲気だけでなく、その中にある静けさや哀愁を感じ取ることができるのが俳句の魅力です。ここでは代表的な3句をご紹介します。
「旅寝よし 宿は師走の 夕月夜」 (松尾芭蕉)
(意味:旅先で泊まる宿は良いものだ。空を見上げれば、師走の夕月が美しく輝いている。)
忙しい師走であっても、旅先での静かな夜の安らぎを詠んだ句です。世間の喧騒と、作者の心の静寂との対比が感じられます。
「炭売に 日のくれかかる 師走哉」 (与謝蕪村)
(意味:炭を売る人に日が暮れかかっている。ああ、なんと忙しい師走なのだろう。)
冬の必需品であった炭を売る人の姿を通して、日が暮れるのが早い冬の短さと、年末の生活の慌ただしさを表現しています。
「けろけろと 師走月よの 榎(えのき)哉」 (小林一茶)
(意味:世間は師走で忙しいというのに、榎の木は何事もなかったかのように平然と月の下に立っているなあ。)
人間界の忙しさと、自然界の泰然とした姿を「けろけろと」という擬態語でユーモラスに対比させた、一茶らしい視点の句です。
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まとめ:師走の言葉に込められた心を大切に
今回は「師走」の意味や由来、正しい使い方について解説しました。
記事のポイントを振り返ります。
- 師走は旧暦の12月を指し、現代では新暦12月の異名として定着している。
- 語源で有名な「僧侶が走る」説は、実は民間語源(俗説)である可能性が高い。
- 言語学的には「年果つ」などが由来として有力視されている。
- 時候の挨拶として使うなら、12月上旬〜中旬がベスト。
「師走」という言葉には、単に「12月」という記号的な意味だけでなく、一年の締めくくりに対する日本人の特別な思いが込められています。
忙しさに追われがちな時期ですが、ふとこの言葉の由来を思い出し、季節の移ろいを感じながら、心穏やかに新年を迎える準備をしてみてはいかがでしょうか。

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