長年愛用してきた「HHKB Lite2」がついに廃盤となり、路頭に迷っているユーザーは少なくありません。独特の打鍵感と配列に慣れ親しんだ指先は、そう簡単に新しいキーボードを受け入れてはくれないものです。
HHKBの上位モデル(Professional)へ移行するのも一つの手ですが、価格やキータッチの違いに躊躇することもあるでしょう。そこで有力な候補として挙がるのが、メカニカルキーボードの新たなスタンダード「Keychron(キークロン)」のK2およびK3です。
今回は、HHKB Lite2からの乗り換え先としてKeychron K2/K3を使い込んだ実体験をもとに、両者の決定的な違いや、移行におけるメリット・デメリットを徹底レビューします。
HHKB Lite2難民がKeychron K2/K3に辿り着く理由
なぜ今、HHKB Lite2の後継としてKeychronが選ばれているのでしょうか。単にデザインが良いからだけではありません。現代の作業環境に必須な機能と、HHKBユーザーが重視する「こだわり」を絶妙なバランスで満たしているからです。
ここでは、実際に移行を決意させた3つの決定的な理由を深掘りします。
MacとWindowsの共存が驚くほどスムーズ
HHKB Lite2時代は、Mac用とWindows(またはLinux)用でそれぞれキーボードを用意していた方も多いはずです。しかし、デスクの上にキーボードが2台ある状況は、決してスマートとは言えません。
Keychron K2/K3の最大の特徴は、1台でMacとWindowsの両方に完全対応している点です。本体側面の物理スイッチを切り替えるだけで、OSごとのキー配列モードが瞬時に変更されます。さらに、それぞれのOSに対応した交換用キーキャップが最初から付属しているため、CommandキーやWindowsキーの表記に迷うこともありません。
ペアリングもBluetoothで最大3台まで登録でき、加えて有線接続も可能です。この柔軟性は、複数OSを行き来するエンジニアやクリエイターにとって、HHKB Lite2にはなかった強力な武器となります。
矢印キーとチルダ(~)の独立は譲れない
HHKBのコンパクトさは魅力ですが、ファンクションキーとの組み合わせ入力が必要な場面が多く、特に「カーソルキー(矢印キー)」と「チルダ(~)」の扱いは好みが分かれるところです。
Keychron K2/K3(75%レイアウト)は、コンパクトさを維持しながら独立したカーソルキーを搭載しています。コーディングや文章作成でのカーソル移動コストが大幅に下がるのは大きなメリットです。
また、HHKB系の一部モデル(K6などの65%配列)では省略されがちな「チルダ(~)」キーも、K2/K3なら独立して存在します。Windows環境での日本語入力切り替えや、Unix系コマンドでのホームディレクトリ指定などで多用するこのキーが「単独で押せる」ことは、ストレスのない入力を実現する上で非常に重要です。
打鍵感のカスタマイズ性と軸の選び方
HHKB Lite2はメンブレン方式ながら、しっかりとしたタクタイル感(クリック感)と約55gという重めの押下圧が特徴でした。この独特の感触に近いものを探す際、Keychronの豊富なキースイッチ選択肢が役立ちます。
Keychronでは主に「赤軸(リニア)」「茶軸(タクタイル)」「青軸(クリッキー)」からスイッチを選択できます。HHKB Lite2ユーザーにおすすめなのは以下の2つです。
- 茶軸: 適度なクリック感があり、HHKBのタクタイル感に近い。万能型。
- 青軸: 押下圧が約60gと重めで、しっかりとした手応えがある。IBM時代のキーボードに近い爽快感。
特にGateron製の青軸は、Lite2の重厚なタッチを好むユーザーにとって「原点回帰」とも言える軽快な打鍵感を提供してくれます。カチャカチャとした音は大きくなりますが、打っている感覚を強く感じたい方には最適解といえるでしょう。
【比較】Keychron K2とK3の違いとは?どっちがおすすめ?
「Keychronが良いのは分かったけれど、K2とK3のどちらを選べばいいの?」という疑問に答えます。両者は配列こそほぼ同じですが、設計思想が全く異なります。
最大の違いは「高さ」と「キースイッチの構造」です。それぞれの特徴を比較表で整理しました。
| 比較項目 | Keychron K2 (ノーマルプロファイル) | Keychron K3 (ロープロファイル) |
|---|---|---|
| 本体の高さ | 高い(リストレスト推奨) | 薄い(ノートPCに近い) |
| キーストローク | 深い(約4.0mm) | 浅い(約2.5mm〜3.2mm ※) |
| スイッチの種類 | 通常のメカニカルスイッチ | ロープロファイル光学/メカニカル |
| 打鍵感 | 重厚でしっかりした打ち心地 | 軽快でパチパチした打ち心地 |
| 携帯性 | 重く厚みがあるため不向き | 薄型軽量で持ち運びに最適 |
| メンテナンス | 掃除しやすい | フローティングデザインで掃除が楽 |
※K3のキーストロークは、Opticalスイッチ(約2.5mm)かMechanicalスイッチ(約3.0〜3.2mm)かによって異なります。
参考:Keychron K2 Wireless Mechanical Keyboard (Global)
深いストロークで打鍵感重視なら「K2」
Keychron K2は、一般的なメカニカルキーボードと同様の高さとストロークを持っています。
実はHHKB Lite2のキーストロークは仕様上「3.8mm」です。対してKeychron K2は「4.0mm」。その差はわずか0.2mmしかありません。
Lite2ユーザーがK2へ移行した際に「指先の違和感が少ない」と感じるのは、このストロークの深さがほぼ同じだからです。
筐体に厚みがある分、底打ちした時の剛性が高く、安定したタイピングが可能です。ただし、手首の角度がきつくなるため、パームレスト(リストレスト)の併用がほぼ必須となります。デスクに据え置いて、HHKB Lite2に近い感覚でガシガシとコードを書くなら、K2が最もスムーズな移行先となるでしょう。
持ち運びと手首への負担軽減なら「K3」
一方のKeychron K3は「ロープロファイル」と呼ばれる超薄型モデルです。キースイッチ自体の背が低く、パームレストなしでも手首への負担がかかりません。
HHKB Lite2(3.8mm)と比べると、K3のストローク(2.5mm〜3.2mm)は明らかに浅く感じられます。打鍵感は異なりますが、ノートPCのキーボードからの移行や、外出先へ持ち運んで使いたい場合にはK3に軍配が上がります。
また、キーキャップが浮いているような「フローティングデザイン」を採用しているため、エアダスターでゴミを飛ばしやすく、メンテナンスや水洗いのハードルが低いのも隠れたメリットです。
実際に移行して感じたメリットと「慣れ」が必要なデメリット
スペック上の比較だけでは見えてこない、実際に使い込んで感じた「リアルな使用感」をお伝えします。HHKB Lite2から移行する際に、最初にぶつかる壁とその乗り越え方についてです。
特に、右端のキー配列については、多くのユーザーが一度は戸惑うポイントです。
エンターキー右側の「誤爆」問題と対処法
Keychron K2/K3のような75%配列キーボードの宿命とも言えるのが、EnterキーやBackspaceキーのさらに右側に「PageUp/Down」「Home」キーが一列配置されている点です。
HHKBや一般的なフルキーボードに慣れていると、Backspaceキーを押そうとして、右隣のHomeキーなどを誤って押してしまう「誤爆」が頻発します。文章入力中にカーソルが突然行頭や文末に飛んでしまうと、思考が中断され大きなストレスになります。
これには「慣れ」が必要ですが、1週間〜2週間ほど使い続けることで指が距離感を覚え、ミスタイプは激減します。どうしても慣れない場合は、OS側の設定やフリーソフト(Karabiner-Elementsなど)を使って、右端のキーを無効化するか、別のキーに割り当てることで物理的に解決することも可能です。
バックスペースとCtrlキー位置の違和感
HHKB Lite2の特徴的な配列の一つに、「BackspaceキーがEnterキーのすぐ上にある(一般的なキーボードより一段低い)」という点がありました。Keychronは標準的な英語配列に準拠しているため、Backspaceキーは最上段に位置します。
最初は指が空を切る感覚があるかもしれませんが、これは「世の中の標準的な配列に戻れる」というメリットでもあります。Keychronの配列に慣れてしまえば、今後どのメーカーのキーボードを使っても違和感なく操作できるようになります。
また、Windows使用時に「左Ctrlキー」が遠く感じる問題もあります。HHKBではAキーの隣がCtrlでしたが、Keychronでは左下がCtrlです。これについては、Windowsの設定でCapsLockキーとCtrlキーを入れ替えることで、HHKBと同様の操作感を取り戻すことができます。
USBハブ機能と電源ボタンがないことへの対策
HHKB Lite2にあってKeychronにないもの、それは「USBハブ機能」と「独立した電源ボタン」です。
Lite2の背面にマウスのレシーバーを挿して運用していた場合、Keychronへ移行するとマウスの接続方法を再考する必要があります。Bluetoothマウスに買い替えるか、別途USBハブを用意してレシーバーを管理する運用になります。PCを複数台切り替える際は、マウスもマルチペアリング対応のもの(ロジクール MX Master 3Sなど)に合わせると、キーボードと共にデスク周りを完全ワイヤレス化でき快適です。
また、スリープ運用が主体のMacユーザーにとって、キーボードからワンタッチでスリープさせる電源ボタンがないのは地味に痛手かもしれません。ショートカットキー(MacならOption+Cmd+電源ボタン/Eject、あるいはCtrl+Shift+電源など)を覚えることで代用しましょう。
まとめ
HHKB Lite2の廃盤は残念ですが、Keychron K2/K3はその後継として十分に検討する価値のあるキーボードです。
移行の結論としては以下の通りです。
- Keychron K2: HHKB Lite2(3.8mm)とほぼ同じ4.0mmストローク。打鍵感の違和感を最小限に抑えたいデスク据え置き派に最適。
- Keychron K3: 薄型で手首の疲れを軽減したい方。持ち運びや掃除のしやすさを重視する方に最適。
配列の違いによる初期の戸惑いはありますが、それを補って余りある「無線化の利便性」と「OS間のシームレスな切り替え」が手に入ります。HHKBという呪縛から解き放たれ、現代的なキーボード環境へアップデートする良い機会として、Keychronを試してみてはいかがでしょうか。

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