「食事をとる」と書くとき、どの漢字変換を選べばいいのか迷った経験はありませんか。
結論から言うと、一般的に食事という行為や時間を確保する場合は「取る」、栄養として体に取り入れる場合は「摂る」を使います。
しかし、実は「摂る」という読み方は、公的な文書では使えない場合があることをご存じでしょうか。
この記事では、プロのライターや編集者も実践している「取る」と「摂る」の正しい使い分けについて、分かりやすく解説します。
「取る」と「摂る」の決定的な意味の違いとは?
日本語には「とる」と読む漢字が数多く存在しますが、その中でも特に混同しやすいのがこの二つです。
まずはそれぞれの漢字が持つ本来の意味と、イメージの違いを整理しておきましょう。
根本的な意味を押さえておけば、迷ったときにすぐ判断できるようになります。
「取る」は「手にする・自分のものにする」
「取る」は最も広く使われる漢字で、基本的には「手でつかむ」「操作する」「自分の所有にする」という意味を持ちます。
物理的に何かをキャッチする場合だけでなく、時間や場所を確保する場合にも使われるのが特徴です。
「出前を取る(注文して手に入れる)」や「休みを取る(時間を確保する)」といった表現は、すべてこの「取る」に分類されます。
「摂る」は「体内に取り入れる」
一方、「摂る」は非常に限定的な使われ方をします。
主な意味は「体内に取り入れて吸収する」こと、または「養生する」ことです。
ビタミン、水分、カロリーなど、健康維持のために体の中へ物質を入れるニュアンスが強い場合に用いられます。
また、「摂政(せっしょう)」という言葉があるように、複数のものを兼ねる、代行するといった意味もありますが、日常会話では「摂取」の意味で使われることがほとんどでしょう。
一目でわかる「取る・摂る」比較表
違いを直感的に理解できるよう、比較表にまとめました。
| 漢字 | 中心的なイメージ | 具体的な使用例 |
|---|---|---|
| 取る | 手でつかむ、確保する、選び取る | 帽子を取る、予約を取る、メモを取る、汚れを取る |
| 摂る | 体内に入れる、吸収する、養生する | 水分を摂る、ビタミンを摂る、栄養を摂る、食事を摂る |
「食事をとる」と書く場合の正しい使い分け基準
さて、本題の「食事」についてです。
検索キーワードでも「食事 取る 摂る どっち」と調べる人が多いように、ここは非常に曖昧なグレーゾーンです。
文脈によって正解が変わるため、前後の文章が何を強調しているかで判断する必要があります。
「食事の時間」を指すなら「取る」
「昼食をとってから会議を始めましょう」と言う場合、これは「昼ごはんを食べる時間を確保する」という意味合いが強くなります。
この場合は「取る」を使うのが自然です。
また、レストランを予約したり、出前を頼んだりする場合も「食事(の手配)を取る」という意味で使われるため、日常的なシーンでは「取る」を使っておけば間違いではありません。
「栄養摂取」を指すなら「摂る」
一方で、「風邪を引いたので、消化の良い食事をとる」という文脈ではどうでしょうか。
この場合、単に時間を過ごすのではなく、体調回復のために栄養を体内に入れることが目的です。
したがって、このケースでは「摂る」が適しています。
健康記事や医療関連の文章では、食事という行為を栄養補給の手段として捉えるため、「摂る」が頻繁に使われる傾向にあります。
ビジネスや公用文では注意!「摂る」は常用漢字表外の読み方
ここで一つ、非常に重要な注意点があります。
実は「摂」という漢字は常用漢字表に含まれていますが、「とる」という訓読みは常用漢字表で認められていません。
公用文(役所の文書)や、新聞、テレビのテロップ、教科書などの厳格なルールに基づく媒体では、「摂る」と表記することは原則としてNGとされています。
公的な文書では「摂取する」かひらがなを使う
ビジネスメールや企画書などで、相手が漢字の用字用語に厳しい場合、「水分を摂る」と書くと「読めるけれどルール違反」と見なされるリスクがあります。
そのため、公的な文書を作成する際は以下のいずれかの対応をとるのが無難です。
- 「摂取する」という熟語に書き換える(例:水分を摂取する)
- ひらがなで「とる」と書く(例:水分をとる)
- 一般的な「取る」で代用する(新聞表記などでは「取る」に統一されることが多いです)
Web記事や個人のブログ、SNSなどでは、ニュアンスを伝えるために「摂る」を使っても全く問題ありません。
媒体やターゲット読者に合わせて使い分けるのが、スマートな大人の文章術といえるでしょう。
参考:常用漢字表(文化庁)
誤用しやすい「とる」の漢字バリエーション
「とる」には他にも多くの漢字が当てられます。
変換ミスで意図しない意味になってしまわないよう、代表的なものをいくつか確認しておきましょう。
特に「採る」や「執る」はビジネスシーンでも頻出するため、注意が必要です。
「採る」:選びとる・採取する
「採用」や「採集」という熟語からも分かるように、多くの中から選び出す、あるいは植物や昆虫などを集めるときに使います。
「新しい方法を採る(採用する)」「血を採る(採血)」などが代表例です。
「決を採る(採決)」もこの漢字を使うため、会議の議事録などで間違えないようにしましょう。
「執る」:事務や政務を行う
「執り行う(とりおこなう)」という言葉があるように、指揮をとったり、事務処理を行ったりする場合に使います。
「指揮を執る」「事務を執る」などが正しい用法です。
リーダーシップを発揮する場面では「取る」ではなく「執る」を使うと、より厳格で責任感のあるニュアンスが伝わります。
まとめ
「取る」と「摂る」の違いについて解説しました。
パソコンやスマホの変換機能に頼りすぎず、文脈に合わせて適切な漢字を選ぶことで、文章の説得力はグッと高まります。
- 取る:最も一般的。「手でつかむ」「時間を確保する」などの意味。食事の時間そのものを指す場合にも使う。
- 摂る:「体内に入れる」「栄養を吸収する」意味。栄養補給としての食事や、サプリメント、水分補給に使われる。
- 注意点:「摂る」という読み方は常用漢字表にはない。公的な書類では「摂取する」か「とる(ひらがな)」、または「取る」への統一が安全。
迷ったときは、「栄養の話をしているのか?」「ただの動作や時間の話なのか?」と自問してみてください。
もし判断がつかない場合や、堅苦しい文書を書く場合は、ひらがなで「食事をとる」と書くのが最も安全で、誰にでも伝わる親切な表現です。

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