映画や漫画のワンシーンで、車の窓から身を乗り出している姿を見たことはありませんか?あの行為が、一般的に「箱乗り(ハコ乗り)」と呼ばれているものです。
この記事では、箱乗りの意味や由来、リスクについて分かりやすく解説します。
そもそも「箱乗り」とは?意味と由来を解説
箱乗り(ハコ乗り)とは、走行中の車の窓枠に腰掛け、上半身を完全に車外に出す危険な乗り方を指します。特に、複数人で威勢を誇示するような場面で描かれることが多いため、「ワイルドでかっこいい」といったイメージを持つ方もいるかもしれません。
しかし、その実態は極めて危険な行為であり、一瞬の気の緩みが重大な事故につながる可能性があります。まずは、この「箱乗り」という言葉の意味と、その由来について見ていきましょう。
「箱乗り」の語源は諸説あり
「箱乗り」の語源にはいくつかの説がありますが、最も有力とされているのは、オープンカーの形状に由来するという説です。
昔のオープンカーは、その見た目が「箱」のようでした。その車のドア部分(箱の縁)に腰掛けて乗る姿から、「箱乗り」と呼ばれるようになったと言われています。
他にも、お祭りで神輿を担ぐ「箱丁(はこちょう)」と呼ばれる人たちの威勢のいい姿に由来するという説もあります。いずれにせよ、本来の乗車位置ではない場所に座る、特殊で目立つ乗り方であることが言葉の背景にあるようです。
現代では、オープンカーに限らず、セダンやミニバンなどの窓から身を乗り出す行為全般を「箱乗り」と呼ぶのが一般的になっています。
箱乗りは道路交通法違反!問われる罪と罰則を徹底解説
「箱乗りはかっこいいどころか、明確な法律違反です」。
結論から言うと、箱乗り行為は道路交通法に違反し、運転者と同乗者の両方が罰則の対象となる可能性があります。具体的にどのような違反に問われるのか、詳しく見ていきましょう。
安全運転義務違反や乗車方法違反に該当
箱乗りでまず問われるのが、運転者の「安全運転義務違反」(道路交通法第70条)です。
運転者には、同乗者が転落したりしないように、安全な運転をする義務があります。同乗者が箱乗りをしている状態での運転は、到底安全とは言えません。万が一、同乗者が転落すれば大事故につながるため、それを容認した運転者には重い責任が課せられます。
また、箱乗りをしている同乗者自身も、「乗車方法違反」(道路交通法第55条第2項)や「シートベルト着用義務違反」(同第71条の3)に問われる可能性があります。
比較表:箱乗りで問われる主な交通違反
箱乗りに関連する主な違反をまとめました。運転者と同乗者、それぞれに異なる罰則が科される可能性があることが分かります。
違反の種類 | 根拠法条 | 対象者 | 違反点数 | 反則金(普通車) |
---|---|---|---|---|
安全運転義務違反 | 道路交通法第70条 | 運転者 | 2点 | 9,000円 |
乗車方法義務違反 | 道路交通法第55条2項 | 同乗者 | なし | 6,000円 |
このように、運転者には違反点数と反則金の両方が科せられます。特に「安全運転義務違反」は点数が2点と高く、ゴールド免許のドライバーにとっては大きな痛手となるでしょう。
参考:交通違反の点数一覧表|警視庁
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サンルーフからの箱乗りも当然NG!
「窓じゃなくてサンルーフから顔を出すだけなら大丈夫?」と考える方もいるかもしれませんが、これも完全にアウトです。
サンルーフから上半身を乗り出す行為も、転落や障害物との衝突の危険性があり、上記の「安全運転義務違反」や「乗車方法違反」に該当します。
近年、SNS映えを狙ってサンルーフから身を乗り出す写真や動画を投稿するケースが見られますが、これも立派な交通違反です。軽い気持ちで行った行為が、厳しい罰則や事故につながることを絶対に忘れないでください。
なぜ危険?箱乗りが引き起こす3つの重大なリスク
法律で禁止されているのには、もちろん理由があります。箱乗りという行為がいかに危険か、具体的なリスクを3つのポイントで解説します。
転落による死亡・重傷事故のリスク
箱乗りで最も恐ろしいのが、走行中の車からの転落です。
窓枠に浅く腰掛けているだけの状態は非常に不安定。急ブレーキや急ハンドル、路面の凹凸、対向車とのすれ違いざまの風圧など、些細なきっかけで簡単にバランスを崩し、車外へ放り出されてしまいます。
アスファルトに直接叩きつけられれば、頭部を強打して死亡したり、重い後遺症が残ったりする可能性が極めて高いです。シートベルトやエアバッグといった安全装置の保護は一切なく、まさに生身を危険に晒す行為なのです。
周囲の車や歩行者を巻き込む可能性
危険は、箱乗りをしている本人だけにとどまりません。
もし転落した人が後続車に轢かれてしまえば、二次被害が発生します。また、箱乗りをしている危険な車を避けようとした周囲の車が、ハンドル操作を誤って別の事故を引き起こす可能性も考えられます。
運転者の視点から見ても、箱乗りをしている同乗者に気を取られ、脇見運転や判断の遅れにつながりやすくなります。自分たちの行為が、まったく無関係な人々の命まで脅かす可能性があることを、肝に銘じるべきです。
障害物との衝突リスク
車外に身を乗り出しているため、道路標識やトンネルの壁、街路樹の枝といった障害物に衝突するリスクも常に付きまといます。
高速で走行している車から障害物に衝突すれば、その衝撃は計り知れません。たとえ運転者が気づいていても、回避が間に合わないケースは十分にあり得ます。ほんの少し身を乗り出しているだけのつもりが、取り返しのつかない事態を招くのです。
箱乗りで逮捕されるケースとは?悪質な場合は刑事事件に
通常、箱乗りは交通反則切符(青切符)による行政処分で済むことが多いです。しかし、その行為が悪質・危険であると判断された場合は、話が大きく変わってきます。
交通違反というレベルを超え、刑事事件として扱われ、逮捕に至るケースも少なくありません。
例えば、集団で暴走しながら箱乗りを行い、他の車両の通行を著しく妨害するような行為は、「共同危険行為等」として厳しく罰せられます。この場合、3年以下の懲役または50万円以下の罰金が科される可能性があり、交通違反の反則金とは比べ物にならない重い処分となります。
実際に、2021年には首都高速道路で箱乗り運転をした男性が、共同危険行為の疑いで逮捕されるという事例も発生しています。単なる目立ちたがり屋の行為では済まされない、社会的に許されない行為であると認識する必要があります。
参考:くるまのニュース
箱乗りの例外は?選挙カーやSPはなぜ許されるのか
ここまで箱乗りの違法性と危険性を解説してきましたが、「選挙カーやSP(警護車)は箱乗りしているように見えるけど、あれはいいの?」と疑問に思う方もいるでしょう。
これらには、法律で定められた例外規定が存在します。
まず選挙カーですが、道路交通法施行令第26条の3の2において、選挙運動中はシートベルトの着用義務が免除されています。これは、候補者が有権者に顔を見せたり、手を振ったりといった選挙活動を円滑に行うための特例です。ただし、これはあくまでシートベルトの免除であり、上半身を完全に乗り出すような危険な「箱乗り」が全面的に許可されているわけではありません。
一方、要人を警護するSPの箱乗りは、職務上の緊急行為として認められています。不測の事態に即座に対応するため、周囲を警戒し、時には身を挺して要人を守る必要があるためです。これは「正当業務行為」と見なされ、違法性はないと判断されます。
参考:CARPRIME
まとめ:箱乗りは「かっこいい」ではなく「極めて危険」な迷惑行為
この記事では、箱乗りの意味や由来、法律上の罰則、そしてその危険性について詳しく解説しました。
- 箱乗りは、窓やサンルーフから身を乗り出す危険な乗車方法
- 「安全運転義務違反」などで運転者・同乗者ともに罰則の対象となる
- 転落や衝突など、死亡・重傷事故につながるリスクが非常に高い
- 悪質な場合は「共同危険行為」として逮捕・処罰されることもある
- 選挙カーやSPの箱乗りは、法律で定められた例外規定によるもの
映画や漫画の世界ではかっこよく見えるかもしれませんが、現実の箱乗りは、自分だけでなく、家族、友人、そして見ず知らずの他人の人生まで狂わせてしまう可能性を秘めた、極めて危険で無責任な行為です。
ほんの少しの好奇心やスリルが、一生後悔するような悲劇につながります。「かっこいい」と「危険」の区別をしっかりとつけ、交通ルールを守って安全なカーライフを送りましょう。
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