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オガネソンとは?作り方・希少性・超高コストの理由を初心者向けに解説

オガネソンとは?作り方・希少性・超高コストの理由を初心者向けに解説 自然・宇宙・科学

周期表のいちばん最後、118番目のマスにいる元素「オガネソン」。名前は聞いたことがあっても、「どうやって作るの?」「なぜそんなに貴重なの?」と聞かれると、答えに詰まってしまう人も多いのではないでしょうか。

オガネソンは自然界には存在せず、巨大な加速器を使って人工的に作るしかない元素です。しかも、これまでに世界で確認された原子はわずか5〜6個。生まれても1000分の1秒ほどで、別の元素に変わってしまいます。

この記事では、専門用語をできるだけかみ砕きながら、オガネソンの基本プロフィールから作り方、希少性、超高コストになる理由、そして「使い道がないのに研究される理由」まで、順番にやさしく解説していきます。

  1. オガネソンとは?まずは基本プロフィールをチェック
    1. 周期表でいちばん重い「118番元素」
    2. 名前の由来はロシアの物理学者オガネシアン博士
    3. 地球上には存在しない「人工元素」
    4. じつは100年以上前に「予言」されていた
  2. オガネソンの作り方|原子核どうしを「ぶつけて合体」させる
    1. 材料は「カリホルニウム249」と「カルシウム48」
    2. 合成の流れを4ステップで解説
    3. 目に見えない原子を「崩壊の足あと」で見つける
  3. 世界で数個だけ!オガネソンの希少性
    1. 2002年以降、確認された原子はたった5〜6個
    2. カルシウムを「2500京個」ぶつけて、ようやく1個
    3. 「本当にできたのか?」を確かめる厳しいチェック
  4. 半減期は約0.7ミリ秒|どれくらい「一瞬」なの?
  5. オガネソンが超高コストな5つの理由
    1. 理由①:標的のカリホルニウムが超貴重
    2. 理由②:弾丸のカルシウム48も「レアもの」
    3. 理由③:巨大な加速器を何か月も動かし続ける
    4. 理由④:成功する確率がとてつもなく低い
    5. 理由⑤:放射性物質の管理と超高感度な装置が必要
  6. 「1グラム集めたらいくら?」をざっくり試算してみた
  7. オガネソンは何かに使える?実用化の可能性
  8. それでもオガネソンを研究する3つの価値
    1. 価値①:周期表の「第7周期」を完成させた
    2. 価値②:「貴ガスなのに貴ガスらしくない?」を探る
    3. 価値③:「安定の島」に近づくための手がかり
  9. オガネソンに関するよくある質問
    1. Q. オガネソンは買ったり、実物を見たりできる?
    2. Q. 放射線は危なくないの?
    3. Q. 119番以降の元素はもう見つかっている?
  10. まとめ

オガネソンとは?まずは基本プロフィールをチェック

はじめに、オガネソンがどんな元素なのかを表でざっくり確認しておきましょう。

項目内容
元素記号Og
原子番号118
周期表での位置第7周期・第18族(貴ガスと同じグループ)
天然での存在なし(人工的に合成するしかない)
確認された原子の数5個(6個の可能性あり)
確認されている同位体オガネソン294のみ
半減期約0.7ミリ秒
初観測2002年(ロシアとアメリカの共同研究チーム)
発見の認定2015年12月
正式な命名2016年11月
参考:インタラクティブ周期表

周期表でいちばん重い「118番元素」

元素の種類は、原子の中心にある「原子核」に含まれる陽子の数で決まります。陽子が1個なら水素、6個なら炭素、79個なら金というように、この数を「原子番号」と呼びます。

オガネソンの原子番号は118。つまり、ひとつの原子核に陽子が118個も詰まっています。現在、正式に認められている元素の中では、原子番号も重さ(質量)もいちばん大きく、周期表の最後のマスに位置しています。

周期表の右端の列である「第18族」に属しているので、ヘリウム、ネオン、アルゴン、クリプトン、キセノン、ラドンと同じ「貴ガス(希ガス)」の仲間ということになります。ただし、後で紹介するように、ほかの貴ガスとはかなり違った性質を持つと予想されています。

名前の由来はロシアの物理学者オガネシアン博士

「オガネソン(Oganesson)」という名前は、アルメニア系ロシア人の原子核物理学者、ユーリー・オガネシアン博士にちなんで名付けられました。博士は約60年にわたって超重元素研究を引っぱってきた第一人者で、博士のチームや提案した手法は、107番から118番までの元素の合成に大きく貢献しています。

命名された2016年当時、博士は存命でした。生きている人物の名前が元素名になったのは、アメリカの化学者グレン・シーボーグにちなむ106番元素「シーボーギウム」に次いで、史上2例目のことです。

名前の最後が「〜オン(-on)」になっているのは、ネオン(neon)やアルゴン(argon)など、第18族の元素名の伝統にそろえたためです。ちなみに、正式名称が決まる前は「ウンウンオクチウム(Uuo)」という仮の名前で呼ばれていました。これは数字の「1・1・8」を表す言葉をつなげただけの、いわば番号札のような名前です。

なお、博士本人は自分の名前が周期表に載ったことについて、新しく見つけたものに発見者の名前をつけるのは科学ではよくあることで、数学の定理や病気の名前にも人名はたくさんある、という趣旨のことを語り、いたって控えめな姿勢を見せています。

地球上には存在しない「人工元素」

オガネソンは、地球上のどこを探しても天然には見つかりません。原子核があまりにも不安定で、仮に宇宙のどこかで一瞬できたとしても、すぐに崩壊して別の元素に変わってしまうからです。

そのため、オガネソンを手に入れる、正確には「その存在を確認する」方法は、実験室で人工的に作り出すことだけ。こうした元素は「人工元素」や「合成元素」と呼ばれています。

じつは100年以上前に「予言」されていた

面白いことに、118番元素の存在は、実際に作られるずっと前から予想されていました。アルゴンが発見された翌年の1895年、デンマークの化学者ユリウス・トムセンは、アルゴンのように反応しにくい気体の仲間がほかにもあり、その7番目は原子量292ほどになる、という趣旨の予想を発表しています。さらに1922年には、物理学者ニールス・ボーアが、その元素の原子番号は118になると指摘しました。

トムセンの予言から実際の合成まで、じつに107年。1世紀以上前に予言された「118番目の元素」が、ついに実験室で生み出されたのです。ただし理論計算では、オガネソンは「反応しにくい気体」というトムセンの時代のイメージとはかなり違う性質を持つと予想されていて、ここにも研究のおもしろさがあります。

オガネソンの作り方|原子核どうしを「ぶつけて合体」させる

では、自然界にない元素をどうやって作るのでしょうか。基本的な考え方はとてもシンプルで、「軽い原子核を超高速でぶつけて、重い原子核とくっつける」というものです。

材料は「カリホルニウム249」と「カルシウム48」

オガネソンの合成に使われているのは、次の2つの材料です。

  • 標的(的)になる元素:カリホルニウム249(原子番号98)
  • 弾丸になる元素:カルシウム48(原子番号20)

ポイントは陽子の数の足し算です。カリホルニウムの98個とカルシウムの20個を合わせると、98+20=118。ちょうどオガネソンの原子番号になります。

質量数(陽子と中性子の数の合計)で見ると、249+48=297です。合体した直後の原子核はエネルギーが高すぎて不安定なため、中性子を3個放り出して落ち着き、質量数294の「オガネソン294」になります。

カリホルニウムも自然界には存在しない人工元素で、原子炉を使って長い時間をかけて作られます(くわしくは後ほど紹介します)。一方のカルシウム48は、天然のカルシウムに約0.19%しか含まれていない珍しいタイプ(同位体)です。

わざわざカルシウム48を使うのには理由があります。カルシウム48は陽子20個・中性子28個で、どちらも「魔法数」と呼ばれる特別に安定しやすい数になっており、しかも中性子が多め。そのため、合体したあとの原子核が壊れにくくなり、成功の確率が上がるのです。オガネシアン博士らが推し進めたこのカルシウム48を使う方法は、114番から118番までの元素の発見につながりました。

合成の流れを4ステップで解説

実際の合成は、おおまかに次のような流れで進みます。

  1. 標的を準備する:カリホルニウムを薄い金属箔の上にごく薄く付着させ、標的をつくります。その量は、1平方センチメートルあたり約0.2〜0.3ミリグラムというわずかなものです。
  2. ビームを加速する:カルシウム48の原子核を加速器に入れ、光の速さの約10分の1という猛スピードまで加速します。
  3. ぶつけて合体を待つ:加速したカルシウムを標的に何か月も当て続け、ごくまれに起きる「合体(核融合)」を待ちます。
  4. より分けて検出する:できた原子核を分離装置で大量のビームや不要な粒子からより分け、検出器に打ち込んで記録します。

ただ速くぶつければいいわけではありません。原子核はどちらもプラスの電気を帯びていて強く反発し合うため、それを押し切るだけのスピードが必要です。一方で、勢いが強すぎると、合体した原子核が熱を持ちすぎてすぐに分裂してしまいます。このエネルギーの調整が、合成の成否を分ける重要なポイントです。

目に見えない原子を「崩壊の足あと」で見つける

オガネソンは原子が数個しかなく、しかも一瞬で壊れてしまうため、顕微鏡などで「見る」ことはできません。では、どうやって「作れた」と確認するのでしょうか。

カギになるのは、原子核が壊れるときに出す放射線です。オガネソン294はアルファ線(ヘリウムの原子核)を出して116番元素のリバモリウムに変わり、リバモリウムもすぐにアルファ線を出して114番元素のフレロビウムに変わります。そして最終的には、原子核が大きく割れる「核分裂」を起こして終わります。

検出器には、こうした崩壊が「どこで・いつ・どれくらいのエネルギーで」起きたかが記録されます。研究者はこの連続した崩壊のパターン、いわば「足あと」をたどることで、「最初にそこにいたのは118番元素だった」と逆算して判断するのです。発見チームは、途中で現れるリバモリウムを別の反応で直接作り、その崩壊の様子が一致するかどうかまで確かめています。

世界で数個だけ!オガネソンの希少性

オガネソンが「レア中のレア」と呼ばれるのは、決して大げさではありません。ここでは、その希少さを数字で見ていきましょう。

2002年以降、確認された原子はたった5〜6個

オガネソンの最初の原子が観測されたのは2002年のこと。ロシア・モスクワ近郊のドゥブナにある合同原子核研究所(JINR)で、アメリカのローレンス・リバモア国立研究所との共同チームが実験を行いました。

2002年の実験で1〜2個、2005年の追加実験で2個が観測され、2006年に合成が発表されました。その後も2012年と2015〜2016年の実験でそれぞれ1個ずつ確認されていますが、合計しても5個(6個の可能性あり)ほど。最初の観測から20年以上たった今でも、両手の指で数えられるほどしか作られていない元素なのです。

ちなみに2012年の1個は、117番元素テネシンを作るための実験中に生まれたものでした。標的に使っていたバークリウム249は、約330日で半分がカリホルニウム249に変わる性質があります。そのため標的の一部がカリホルニウムになっていて、テネシンではなくオガネソンができてしまったという、ちょっと珍しいエピソードです。

カルシウムを「2500京個」ぶつけて、ようやく1個

オガネソンがこれほど少ない最大の理由は、合体が成功する確率がとてつもなく低いことです。

最初の1個が観測された実験では、4か月をかけて、約2.5×10¹⁹個、つまり2500京個ものカルシウムの原子核が標的に撃ち込まれました。そうしてやっと、オガネソンと考えられる原子が1個だけ記録されたのです。

2500京という数は、1秒に1個ずつ数えたとしても、数え終わるまでに宇宙の年齢(約138億年)の50倍以上かかる量です。撃ち込んだカルシウムのほとんどは標的の原子核に当たらずに通り抜けるか、当たっても合体できずに離れていってしまいます。

「本当にできたのか?」を確かめる厳しいチェック

新しい元素は、国際純正・応用化学連合(IUPAC)と国際純粋・応用物理学連合(IUPAP)の合同作業部会による審査で認められて、はじめて正式な「発見」となります。オガネソンの場合、この審査にもかなりの年月がかかりました。

じつは2002年の最初の観測は、すぐには発表されていません。記録されたシグナルが、実験でよく紛れ込む別の原子核(ポロニウムの一種)のシグナルと見分けにくかったため、2005年に確認実験を行ってから発表したのです。

さらに2011年の審査では、データの質は高いものの、すでに性質がわかっている原子核とのつながりが確認できていないとして、発見の基準は満たさないと判断されました。その後の審査では、2012年に観測された新たな崩壊の記録に加え、崩壊の途中で生まれるフレロビウムの性質をアメリカのローレンス・バークレー国立研究所が2009年と2010年の実験で確かめていたことなどが評価され、2015年12月にようやく発見が認定されています。

これほど慎重なのには理由があります。1999年、アメリカの研究チームが「118番元素を合成した」と発表したものの、ほかの研究所でも、発表したチーム自身でも結果を再現できずに撤回。のちに、論文の中心人物によるデータの捏造だったことが明らかになりました。わずか数個の原子で新元素を主張する世界だからこそ、証拠のチェックは非常に厳しくなっています。

半減期は約0.7ミリ秒|どれくらい「一瞬」なの?

オガネソンの寿命の短さを表すのが「半減期」です。半減期とは、放射性の原子が崩壊して、元の数の半分になるまでにかかる時間のこと。オガネソン294の半減期は約0.7ミリ秒、つまり0.0007秒とされています(観測された原子が少ないため、この値には大きめの誤差があります)。

0.7ミリ秒がどれほど短いのか、身近なものと比べてみましょう。

  • まばたき1回(約0.1〜0.15秒)と比べると:その100分の1以下
  • 蚊の羽ばたきと比べると:1秒間に数百回はばたく蚊の、羽ばたき1回分よりもさらに短い
  • 光の速さで考えると:秒速約30万kmの光でも、0.7ミリ秒では約210kmしか進めない

また、半減期は「その時間がたつと全部なくなる」という意味ではありません。0.7ミリ秒で半分、1.4ミリ秒で4分の1、2.1ミリ秒で8分の1……と減っていき、7ミリ秒(半減期10回分)がたつころには約1000分の1しか残りません。100分の1秒もたたないうちに、ほぼすべてが別の元素に変わってしまう計算です。

ちなみに、できた原子核が分離装置を通り抜けて検出器に届くまでには、100万分の1秒ほどかかります。オガネソンの寿命はそれより長いので検出はできますが、化学反応をさせて性質を調べるには、あまりにも短すぎるのです。

オガネソンが超高コストな5つの理由

オガネソンは売り物ではないので、市場価格というものはありません。それでも、作るのにとてつもない費用がかかることは確かです。その理由を5つに分けて見ていきましょう。

理由①:標的のカリホルニウムが超貴重

標的に使うカリホルニウム249は、原子炉でキュリウムに中性子を当ててバークリウム249を作り、それがさらに崩壊することで得られる物質です。何段階もの工程を経て作られるため、手に入る量はミリグラム(1000分の1グラム)単位。これを製造・供給できる施設は、アメリカのオークリッジ国立研究所など、世界でもごく限られています。オガネソンの発見実験でも、カリホルニウムの標的はアメリカ側が用意しました。

理由②:弾丸のカルシウム48も「レアもの」

弾丸になるカルシウム48は、先ほど触れたとおり天然のカルシウムに約0.19%しか含まれていません。残りのほとんどは別のタイプのカルシウムなので、特殊な方法で濃縮して取り出す必要があり、非常に高価です。しかも実験では、これをビームにして何か月も撃ち続けます。

理由③:巨大な加速器を何か月も動かし続ける

原子核を光速の約10分の1まで加速するには、サイクロトロンなどの大型加速器が欠かせません。施設の建設費はもちろん、何か月にもおよぶ連続運転の電気代、装置のメンテナンス、実験を支える研究者や技術者の人件費など、莫大な予算が必要になります。

理由④:成功する確率がとてつもなく低い

先ほど紹介したように、最初の実験では2500京個のカルシウムをぶつけて、やっと1個が記録されただけでした。どれだけ設備や材料にお金をかけても、得られる成果はほんの数個。「原子1個あたり」のコストで考えると、まさに天文学的な金額になってしまいます。

理由⑤:放射性物質の管理と超高感度な装置が必要

カリホルニウムは放射性物質で、とくにカリホルニウム249は透過力の強いガンマ線を出すため、ごく少量でも外部からの被ばくに注意が必要です。標的を扱う実験施設には、放射線に対応した特別な設備や安全計画が求められます。さらに、膨大な数の粒子の中からたった1個の原子を見つけ出す分離装置や、一瞬の崩壊も逃さない検出器など、最先端の装置も欠かせません。こうした設備の開発や維持にも、大きなコストがかかっています。

「1グラム集めたらいくら?」をざっくり試算してみた

「もしオガネソンを1グラム集めたら、いくらになるの?」という疑問もよく見かけます。結論からいうと、お金に換算すること自体に意味がないほど、現実離れした話になります。簡単な計算で確かめてみましょう。

まず、1グラムのオガネソン294に含まれる原子の数は約2×10²¹個。日本の数の単位でいえば、およそ20垓(がい)個です。

これに対して、実際に確認されたオガネソンは20年以上で5〜6個。仮に「1年に1個」のペースで作れたとしても、20垓個そろえるには20垓年、つまり宇宙の年齢のおよそ1500億倍もの時間がかかります。技術が飛躍的に進歩して「1日に1個」作れるようになったとしても、まだ宇宙の年齢の約4億倍です。

しかも、オガネソンは約0.7ミリ秒で半分が崩壊してしまうため、作ったそばから消えていきます。そもそも「ためておく」ことができないので、1グラム集めることは、お金の問題以前に物理的に不可能なのです。

「1グラムで兆ドル級」と表現されることもありますが、実際には兆ドルどころの話ではありません。オガネソンは「値段がつけられない元素」と考えるのが、いちばん正確だと言えるでしょう。

※この試算は、わかりやすさを優先したおおまかな計算です。

オガネソンは何かに使える?実用化の可能性

結論からいうと、オガネソンを何かの材料や製品に使うことは、現時点ではまったく現実的ではありません。理由は、ここまで見てきた「数個しか作れない」「一瞬で消えてしまう」の2点に尽きます。

「超伝導材料や量子コンピューターのような最先端技術に使えるのでは?」と期待したくなるかもしれませんが、オガネソンは実験で性質を確かめることすらできない元素です。そうした応用研究が具体的に進められている段階ではなく、使い道を語るのは現時点では早すぎると言えるでしょう。

とはいえ、「役に立たないから研究する意味がない」わけではありません。オガネソン研究の本当の価値は、次に紹介する「基礎研究」としての側面にあります。

それでもオガネソンを研究する3つの価値

価値①:周期表の「第7周期」を完成させた

2015年末に113番、115番、117番、118番の4つの元素の発見が認定されたことで、周期表の第7周期(上から7段目)がすべて埋まりました。翌2016年にはニホニウム、モスコビウム、テネシン、オガネソンという名前も正式に決まり、オガネソンは第7周期の最後のピースとなったのです。

このうち113番のニホニウムは、日本の理化学研究所(理研)のチームが合成した、アジア初の新元素。こちらも10年近い年月をかけて確認できたのはわずか3個という、オガネソンに負けない希少な元素です。私たちが教科書で目にする周期表は、世界中の研究者が長い年月をかけて積み上げてきた成果なのです。

価値②:「貴ガスなのに貴ガスらしくない?」を探る

オガネソンは第18族、つまり貴ガスの仲間です。ヘリウムやネオンなどの貴ガスといえば、ほかの物質とほとんど反応せず、常温では気体というのが一般的なイメージでしょう。

ところが、コンピューターによる理論計算では、オガネソンはこのイメージを大きく裏切ると予想されています。常温では気体ではなく固体(融点は約52℃と予想)になり、ラドンなどよりも反応しやすく、さらに電気をある程度通す「半導体」のような性質を持つ可能性まで指摘されています。2020年には、「貴(ノーブル)でもなければ、ガスでもない貴ガス元素」という意味のタイトルを掲げた論文も発表されました。

こうした変わった性質の原因と考えられているのが「相対論的効果」です。陽子が118個もある原子核は電子を強く引きつけるため、原子核の近くの電子は、光の速さにかなり近いスピードで動くと考えられています。するとアインシュタインの相対性理論の影響が無視できなくなり、電子の状態が変わって、元素としての性質まで大きく変わってしまうのです。実際、相対論的効果を考えずに計算すると、オガネソンの融点はマイナス50℃ほどになるとされており、この効果がいかに大きいかがわかります。

身近な例でいうと、金が銀色ではなく黄金色に輝くのも、この相対論的効果によるものだと考えられています。オガネソンは、この効果が極端に強く表れる「究極の実験台」として、理論研究の世界で注目されているのです。

価値③:「安定の島」に近づくための手がかり

原子核物理学には、「安定の島(Island of Stability)」という考え方があります。原子核の中では陽子どうしがプラスの電気で強く反発し合うため、ほかに安定させる要因がなければ、陽子が104個を超える原子核は存在できないと計算されています。ところが、陽子や中性子の数が特定の組み合わせ(陽子114個・中性子184個前後など)になると原子核がぐっと安定し、数千年から数百万年という長い寿命を持つものがあるかもしれない、と予想されているのです。

オガネソン294の中性子は176個で、まだ「島」の手前にいます。それでも、118番元素がたとえ一瞬でも存在できること自体が、原子核を安定させる効果が本当にあることを示す証拠のひとつになっています。より中性子の多いオガネソンや、さらに重い元素を作ることができれば、「島」の位置をより正確に知る手がかりになるはずです。

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オガネソンに関するよくある質問

Q. オガネソンは買ったり、実物を見たりできる?

できません。オガネソンは合成されてもほんの一瞬で崩壊してしまうため、販売されることはなく、実物を目で見た人もいません。理論計算では常温で固体になると予想されていますが、実際の色や見た目はわかっていません。

Q. 放射線は危なくないの?

オガネソンそのものは数個しか作られておらず、しかも一瞬で崩壊するため、私たちの生活に影響することはありません。ただし、合成に使うカリホルニウムなどの放射性物質は、研究施設で厳重に管理されています。

Q. 119番以降の元素はもう見つかっている?

執筆時点(2026年)では、119番以降の元素はまだ正式に発見が認められていません。日本の理研は、バナジウムのビームをキュリウムに当てる方法で119番元素の合成に取り組んでいます。また、アメリカのローレンス・バークレー国立研究所は、2024年にチタン50のビームで116番元素を作ることに成功し、同じビームをカリホルニウムの標的に当てて120番元素の合成を目指しています。

もし合成に成功して国際的な審査で認められれば、周期表に新しい「第8周期」が加わり、オガネソンは「最後の元素」ではなくなります。ただし、成功したとしても、正式に認められるまでには数年かかると考えられています。

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まとめ

最後に、この記事のポイントをおさらいしておきましょう。

  • オガネソンは原子番号118、周期表の第7周期の最後にある人工元素
  • カリホルニウム249にカルシウム48をぶつけて合体させることで合成される
  • 2002年以降、確認された原子は世界でたった5〜6個
  • 半減期は約0.7ミリ秒と、まばたきの100分の1以下の短さ
  • 1グラム集めるのは、コスト以前に物理的に不可能で「値段がつけられない」
  • 実用化は現実的ではないが、周期表や原子核の謎に迫る基礎研究として大きな価値がある

オガネソンは、手に取ることも、値段をつけることもできない「幻の元素」です。それでも科学者たちは、たった数個の原子から、周期表の成り立ちや相対性理論の効果、原子核の安定性といった、自然界の根本的なルールを読み解こうとしています。

119番、120番と、周期表の「その先」を目指す挑戦は今も続いています。オガネソンは、人類が物質の限界を探る旅の最前線に立つ元素だと言えるでしょう。

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