年末が近づくと、神社の境内や商店街がいつもとは違う活気に包まれることがありますね。お正月飾りやダルマなどが所狭しと並ぶ光景、それが「歳の市(としのいち)」です。
結論から言うと、歳の市とは「年末に正月用品や縁起物を売るために立つ市場」のことです。俳句では冬の季語としても親しまれており、日本の年末には欠かせない行事の一つといえるでしょう。
この記事では、歳の市の意味や開催時期、よく似た言葉である「暮れ市」との違い、そして季語としての使い方について、わかりやすく解説します。
「歳の市」とは?意味や由来をわかりやすく解説
歳の市(としのいち)とは、一年の終わりである暮れに、新年を迎えるための道具や縁起物を販売する市のことを指します。読み方は「としのいち」です。
現代ではスーパーやコンビニでもお正月飾りを買えますが、かつては特定の日に立つ「市」で買い揃えるのが一般的でした。この市に並ぶのは、注連飾り(しめかざり)や門松、鏡餅といった正月用品から、羽子板、破魔矢などの縁起物が中心です。
また、普段使いの日用品や食材(乾物や塩漬けなど)が並ぶこともあり、昔の人々にとっては「生活物資を補充し、新年を安心して迎えるための準備の場」でもありました。
江戸時代から続く庶民の文化
この風習の起源は古く、江戸時代にはすでに定着していたと言われています。当時は現代のように常設のお店が多くなかったため、特定の日に開かれる市は生活に不可欠でした。
また、かつては「ツケ払い(掛け売り)」の精算を年末に行う習慣があったため、商人が集金ついでに商品を売ったり、農村の人々が副業で作った正月飾りを売りに来たりしたことが、歳の市の賑わいに拍車をかけたとされています。
単なる買い物だけでなく、「無事に一年を終えられた感謝」と「来年への期待」が入り混じる、独特の熱気がそこにはあります。
歳の市の時期はいつからいつまで?
「歳の市」が開かれる時期は、一般的に12月中旬から12月下旬(大晦日)にかけてです。
昔は「事始め(ことはじめ)」とされる12月13日頃から市が立ち始め、24日、25日あたりにピークを迎える地域が多くありました。大晦日まで開かれる市は「捨て市」や「泥市」などと呼ばれ、値段が安くなるため駆け込みで買い物をする人で賑わったそうです。
現代における主要な歳の市の開催時期を、いくつか例に挙げてみましょう。
| 名称(場所) | 例年の開催時期 | 特徴 |
|---|---|---|
| 浅草寺 歳の市(羽子板市) | 12月17日〜19日 | 色鮮やかな羽子板が並ぶ、東京を代表する冬の風物詩。 |
| 薬研堀不動尊 納めの歳の市 | 12月26日〜28日 | 衣料品や雑貨の問屋街近くで行われ、正月用品が豊富。 |
| 世田谷ボロ市 | 12月15日・16日 (1月にも開催) | 700店以上が並ぶ大規模な市。骨董品や古着が有名。 |
※開催日程は年によって変動したり、感染症対策や天候で変更になったりする場合があるため、お出かけの際は必ず最新の公式サイト等をご確認ください。
「歳の市」と「暮れ市」の違いはあるの?
歳の市について調べていると、「暮れ市(くれいち)」という言葉を目にすることがあります。「これらは何が違うの?」と疑問に思う方も多いのではないでしょうか。
実のところ、両者に明確な定義の違いはなく、ほぼ同じ意味で使われています。どちらも「年末に開かれる市」を指す言葉です。
地域や規模による呼び方のニュアンス
厳密なルールではありませんが、使われ方には若干の傾向があります。
- 歳の市:全国的に使われる一般的な名称。神社仏閣の境内などで開かれる、正月準備のための市というニュアンスが強い。
- 暮れ市:地方の商店街や特定の地域で、年末最後の売り出しとして使われることが多い。「年末(暮れ)の市」という言葉通りの意味合い。
また、俳句の世界では「暮れ市」よりも「歳の市」の方が、季語としての認知度は高い傾向にあります。どちらの名称であっても、年末の活気ある風景を指している点に変わりはありません。
俳句の季語としての「歳の市」と名句紹介
「歳の市」は、俳句において冬(晩冬・12月)の季語になります。
寒空の下、威勢の良い掛け声が飛び交う活気、色とりどりの正月飾り、そして家路を急ぐ人々の姿。これらは「一年の終わり」と「新年の始まり」が交差する瞬間を象徴しており、多くの俳人に愛されてきました。
関連する子季語(バリエーション)には、以下のようなものがあります。
- 暮れ市(くれいち)
- 節気市(せっきいち)
- 羽子板市(はごいたいち)
- 飾売(かざりうり)
歳の市を詠んだ有名な俳句
江戸時代の俳人たちも、この賑わいを句に残しています。情景を思い浮かべながら読んでみてください。
小林一茶の句
「年の市何しに出たと人の云ふ」(収録:文化句帖)
(としのいち なにしにでたと ひとのいう)
特に買うものもないのに、ふらりと歳の市に出かけてしまった一茶。「何しに来たんだ」と人に言われてしまう様子から、用事がなくても行きたくなる市の引力が伝わってきますね。
松尾芭蕉の句
「年の市線香買ひに出でばやな」(収録:続虚栗)
(としのいち せんこうかいに いでばやな)
世間は正月飾りを買い求めて浮き立っているが、隠者である自分には関係がない。せめて線香でも買いに行こうか、という句。華やかな賑わいと、静かな精神生活との対比が印象的です。
まとめ:歳の市で日本の年末を感じよう
「歳の市」は、単なる買い物イベントではなく、無事に一年を過ごせたことを感謝し、新しい年を迎える準備を整えるための大切な行事です。
- 歳の市=年末に正月用品や縁起物を売る市場のこと。
- 時期=12月中旬から下旬にかけてピークを迎える。
- 暮れ市=ほぼ同義語。地域によって呼び名が変わることも。
- 季語=冬(12月)の季語として、賑わいや忙しなさを表現する。
もしお近くで歳の市や暮れ市が開催されていたら、ぜひ足を運んでみてください。スーパーで済ませる買い物とはひと味違う、人々の熱気や季節の温かみを感じることができるはずですよ。

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