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叙述トリックとは?種類・仕掛け・有名作品を徹底解説【ミステリー好き必見】
「叙述トリック」とは、読者の思い込みを巧みに利用した文章テクニックのこと。ミステリー小説で多用され、意外な真相が明かされた瞬間の驚きや爽快感が魅力です。この記事では、叙述トリックの基本から代表的な種類、有名作品まで詳しく解説。読み返すたびに新たな発見がある、奥深いトリックの世界をぜひ体験してみてください!
叙述トリック(じょじゅつトリック)とは?
叙述トリックとは、小説(特に推理小説)や物語の文章表現上の“仕掛け”のことを指します。
- 読者が持つ文脈の前提や先入観(固定観念)を利用して、真相に気づかせにくくする技法。
- 基本的には読者を意図的に誤読へ導く「ミスリード」の要素を含みながらも、後から読み返すと「確かに文章には嘘が書かれていない」という形で“フェア”に成立している点も大きな特徴です。
叙述トリックが明かされる瞬間には、「そういうことだったのか!」という驚きと爽快感が読者を待ち受けています。
なぜ叙述トリックは面白いのか?
- 意外な事実に驚ける
推理小説では「真相を突き止めたい」という読者の好奇心を刺激しますが、叙述トリックによって読者の思い込みが崩されたとき、強いインパクトが生まれます。 - 読み返すと二度おいしい
どんでん返しを知ったあとでもう一度読み返すと、文中に巧妙に仕込まれたヒントや伏線、曖昧表現の意図が見えてきます。その“再発見”が読書体験をさらに豊かにしてくれます。 - 作家の文章テクニックを堪能できる
叙述トリックの成立には「読者が勝手に誤解してしまうような文章」を書くバランス感覚が欠かせません。明らかな嘘は書かずに、しかしバレないように真実を隠す――という難しい綱渡りを支える、作者の技術の妙を味わうことができます。
補足: 上記の2.「読み返すと二度おいしい」と3.「文章テクニック」は表裏一体の要素でもあり、読者の思い込みや曖昧さを利用する作家の巧妙さこそが叙述トリックを際立たせるポイントです。
叙述トリックの種類・パターン
叙述トリックは多種多様ですが、主なパターンをいくつか挙げてみます。
※各トリックの代表的な作品例をざっくり示しますが、ネタバレにも繋がるため、代表例を見る場合は十分ご注意ください。
視点の錯覚(語り手トリック)
- 一人称で語っている「私」が、実は事件の犯人、あるいは被害者、第三者など、読者の想像と大きく異なる立場だった。
時系列トリック
- 物語が「今起きていること」だと思っていたら、実は過去の回想だった(あるいは逆)。
- 時系列を巧みに組み替え、読者が当たり前に持っている「この場面は現在進行形だよね」という前提を覆す仕掛け。
貴志祐介『十三番目の人格 ISOLA』は、時系列が複雑に交錯する作品の一例です。読者が「現在の出来事」と思い込んでいたものが、実は過去の話だったと気づく瞬間に、大きなどんでん返しが待っています。
場所・空間のトリック
- 舞台設定を曖昧にしたり、実際とは違う場所を想像させる文章で読者をミスリードする。
- 例:表現上は自由に出入りできそうな“部屋”に見えて、実際は密室状態であることを後で明かす。
情報の隠蔽・省略(読者の思い込みを誘発)
- 本来なら説明されるはずの情報(登場人物の性別や容姿、関係性など)を意図的に伏せたり、曖昧に書いたりする。
- 読者が自動的に抱いてしまうイメージを逆手に取るパターン。
麻耶雄嵩『神様ゲーム』は、情報の隠蔽を駆使した巧妙な作品です。登場人物の関係や年齢、背景に関する情報が巧みにぼかされ、読者は無意識のうちに誤解するよう誘導されます。
言葉のミスリード・文脈の操作
- 言葉のミスリード:別の意味に取りやすい単語を狙って使用し、読者を勘違いさせる。例えば、「彼は最後に微笑んだ」という文章があったとします。読者は「登場人物Aが微笑んだ」と思い込んでいたが、実は「登場人物Bのことを指していた」というケースです。
- 文脈の操作:場面転換や主語の曖昧化などを活用し、いつの間にか登場人物や視点が入れ替わっているのに読者が気づかないようにする。
- 例:同じ「彼」という代名詞を使い続けることで、複数の人物が登場しているにもかかわらず、一人の人物だと誤解させる…など。
面白い例文のご紹介
例文A(語り手トリックの簡単な例)
わたしは、長年一緒に住んでいる相棒のために食事の準備をした。食事を出すと、いつものように満足そうに食べている。仕事で疲れてはいたが、彼の姿を見ると心が癒やされる。最近は会話も少なくなったけれど、わたしの中では毎日欠かせない大切な存在だ。
「そろそろ寝るか……」
わたしはあくびをしながら、食器を回収して彼のそばに座った。すると彼は振り返って、短く吠えた。今のが「おやすみ」の合図なのだと、わたしは勝手に思っている。
解説:
「相棒」という言葉から人間のパートナーを連想しがちですが、実は犬でした! という、小さな叙述トリックの例です。作家がこうした言葉選びを巧みにコントロールすることで、読者の先入観を利用し、意外性を生み出します。
例文B(時系列トリックを少し複雑にした例)
【冒頭シーン】
私は暗い部屋の中で息をひそめていた。外からは何かを叩く大きな音が響いている。
「私はもう逃げられない。ここで最期を迎えるのかもしれない」
そう覚悟を決めたとき、音が急に止んだ――。【途中シーン】
祖母の納骨が終わり、私は引き取った古い日記を開いた。そこには10年前、祖母が体験したという恐ろしい事件の詳細が記されていた。
「……こんなことがあったなんて」【終盤】
祖母の日記のラストページを読み進めるうち、私はある事実に気づく。
“暗い部屋の出来事”は、祖母ではなく“私自身”がすでに体験した未来のシーンだったのだ。
そして、その日記は祖母が予言のように書き残したものだった……。
解説:
- 冒頭シーンを「過去に起きた祖母の事件」と思い込ませる書き方をしておきながら、実は未来の自分の体験だった、という複合的な時系列トリックの例です。
- 読者は時系列を自然に“過去→現在→未来”と考えがちですが、叙述を操作することで“未来→過去→現在”へと再解釈を迫られます。
叙述トリックを楽しむコツ
- 素直に物語を受け止めつつ、時折疑う
小説を読む醍醐味は没入感ですが、「この表現は本当にそういう意味なのか?」と少し身構えるのも、叙述トリックを楽しむ醍醐味になります。 - 曖昧な表現や省略部分に注目する
性別、年齢、日付など、通常なら明確に書かれそうな情報がぼかされている場合は要注意。そこにこそトリックのタネが潜んでいるかもしれません。 - 読み終わったあとで伏線を回収する
「あのときの一文が実はヒントだったんだ!」と気づく瞬間が、叙述トリックの最大の醍醐味。二度目の読み方は、パズルの答え合わせをするような楽しさがあります。 - 代表的な作品に触れてみる
叙述トリックの魅力を存分に味わうには、定評のある作品を実際に読んでみることが一番。特に推理小説好きの間で名前が挙がる作品(例:綾辻行人『十角館の殺人』など)は、多様なトリックが仕掛けられており、学びにもなります。
まとめ
叙述トリックとは、読者の思い込みや先入観を利用することで意外な結末を生み出す文章テクニックです。
- 文章の中に「本当のこと」を書きつつも、読者に別の意味に取らせる工夫がある。
- 物語の視点や時間の流れを巧みに操作し、「思っていたのと違う!」という驚きを生み出す。
- 読み終わった後に「そういうことだったのか!」と納得できる仕掛けが隠されている。
驚きのある読み味はもちろん、オチを知ったあとの二度目の読書で「ここにヒントがあったのか!」と発見できる喜びも、叙述トリックならではの魅力。
ぜひ、いろいろな作品でこの“言葉の魔術”を味わってみてください。
読者としてじっくり楽しむのはもちろん、小説や物語を書く際に取り入れてみるのも、面白い創作体験になるはずです。
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