地球の表面積の約7割を占める海は、私たちの生命維持に欠かせない酸素の供給源であり、気候調整の要です。しかし今、海洋プラスチックごみや乱獲、海水温の上昇により、海はかつてない危機に瀕しています。
SDGs(持続可能な開発目標)の目標14「海の豊かさを守ろう」は、海洋汚染を防ぎ、海洋資源を持続可能な形で利用することを定めた国際目標です。この記事では、最新データを交えながら、海の現状と課題、そして今日から始められる具体的な取り組みについて解説します。
SDGs目標14「海の豊かさを守ろう」が目指す世界
目標14は正式には「持続可能な開発のために海洋・海洋資源を保全し、持続可能な形で利用する」というテーマを掲げています。単に魚を守るだけでなく、海洋汚染の防止、生態系の回復、そして漁業従事者の生活向上までを含む包括的な目標です。
具体的には10個のターゲット(達成基準)が設定されています。その中には、2025年までに海洋汚染を大幅に削減することや、違法・無報告・無規制(IUU)漁業を撲滅することなどが含まれます。海は国境を越えてつながっているため、一国だけでなく国際的な協力体制が不可欠です。
私たちの暮らしは、呼吸する酸素の約半分を海に依存し、多くのタンパク質源を水産物から得ています。目標14の達成は、海洋生物のためだけでなく、人類の生存基盤を守ることと同義といえるでしょう。
データで見る海洋環境の深刻な3つの課題
なぜ今、急ピッチでの対策が必要なのでしょうか。公的機関が発表しているデータを紐解くと、事態の深刻さが浮き彫りになります。ここでは主要な3つの課題について解説します。
止まらない海洋プラスチック汚染
世界では年間数百万トンものプラスチックごみが海に流出していると言われています。経済協力開発機構(OECD)の報告によると、現状のまま対策を講じなければ、世界のプラスチックごみの発生量は2060年までに現在の約3倍に増加すると予測されています。
海に流れ出たプラスチックは、紫外線や波の力で細かく砕かれ、直径5mm以下の「マイクロプラスチック」になります。これを魚や海鳥が誤飲することで生態系に悪影響を及ぼし、食物連鎖を通じて私たち人間の体内にも取り込まれる可能性が懸念されています。
水産資源の枯渇と乱獲の問題
「魚が食卓から消える」という言葉は、もはや比喩ではありません。国連食糧農業機関(FAO)が発表した「世界漁業・養殖業白書 2024」によると、生物学的に持続可能なレベルにある水産資源の割合は年々低下しており、世界の水産資源の約37.7%が乱獲状態(過剰漁獲)にあると報告されています。
特に、違法に操業するIUU漁業は、適切な資源管理を妨げる大きな要因です。持続可能な漁獲量を守らなければ、将来の世代は現在のような豊かな魚食文化を享受できなくなるでしょう。
気候変動による海洋酸性化と海水温上昇
海は、人間活動によって排出される二酸化炭素(CO2)の約25〜30%を吸収してくれる「吸収源」でもあります。しかし、過剰なCO2吸収は海水、海洋酸性化を引き起こします。酸性化が進むと、サンゴや貝類が殻を作りにくくなり、生態系のバランスが崩壊します。
さらに海水温の上昇は、サンゴの白化現象を招くだけでなく、魚の生息域を変化させます。これにより、これまで獲れていた魚が獲れなくなるなど、漁業経済にも直接的な打撃を与え始めているのです。
国際的な海洋保全への新しい動き
こうした状況を打破するため、国際社会も新たな枠組みで動き出しています。特筆すべきは、2023年に国連で採択された「BBNJ協定(国家管轄権外区域の海洋生物多様性の保全及び持続可能な利用)」です。
これまで、どこの国の所有でもない「公海」は規制が難しく、乱獲や環境破壊の温床になりやすい場所でした。この新協定により、公海に保護区を設けるルールなどが整備され、地球全体の海の約3分の2を占める公海の保全が大きく前進すると期待されています。
また、海藻や湿地帯が吸収するCO2「ブルーカーボン」への注目も高まっています。アマモ場などの再生は、CO2削減と水産資源の隠れ家確保の一石二鳥の効果があるため、日本各地でも再生プロジェクトが進んでいます。
私たちにできること:持続可能な選択の実践
海洋保全は政府や大企業の責任だけではありません。私たち消費者の日々の選択が、市場を変え、海を守る力になります。日常生活で取り組める具体的なアクションを見ていきましょう。
エコラベル認証のある水産物を選ぶ
スーパーで魚を買う際、「MSC認証」や「ASC認証」というマークを目にしたことはあるでしょうか。これらは「海のエコラベル」と呼ばれ、環境や資源に配慮して生産された水産物の証です。
ラベル付きの商品を選ぶことは、持続可能な漁業を行う漁業者を応援することに直結します。通常の製品とどのような違いがあるのか、以下の表にまとめました。
| 比較項目 | 持続可能な水産物(サステナブルシーフード) | 配慮のない水産物 |
|---|---|---|
| 資源管理 | 科学的根拠に基づき、獲りすぎないよう管理されている。 | 利益優先で、稚魚まで根こそぎ獲るなどの乱獲傾向がある。 |
| 環境への影響 | 混獲(目的外の生物を獲ること)や海底破壊を最小限に抑える。 | 網で海底を傷つけたり、ウミガメなどを巻き込んだりする。 |
| 見分け方 | MSC認証(天然)、ASC認証(養殖)のマークがある。 | 認証マークがなく、トレーサビリティ(追跡可能性)が不明瞭。 |
プラスチック・スマートな生活への転換
使い捨てプラスチックを減らす「リデュース」が最も重要です。レジ袋やペットボトルだけでなく、過剰包装の商品を避けることも効果的です。
また、意外と見落としがちなのが、化学繊維の服から出るマイクロプラスチックです。フリースなどを洗濯する際は、目の細かい洗濯ネットを使用することで、繊維の流出をある程度防ぐことができます。街中のごみが雨や風で川へ運ばれ、最終的に海へたどり着くため、街の清掃活動に参加することも立派な海洋保全活動です。
まとめ:次世代へ豊かな海をつなぐために
SDGs目標14「海の豊かさを守ろう」は、海洋汚染、乱獲、気候変動という複合的な課題に立ち向かうための指針です。世界の水産資源の3割以上が危機的状況にあり、プラスチック汚染も深刻化している今、待ったなしの対応が求められています。
海を守ることは、遠い世界の話ではありません。今日スーパーで手に取る魚を「サステナブル・シーフード」に変えること、マイボトルを持ち歩くこと、ごみを適切に処分すること。これらの一つひとつが、確実に海の未来を変える一票になります。美しい海を次世代へ引き継ぐために、まずは身近な選択から見直してみましょう。

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