SDGs目標3「すべての人に健康と福祉を」は、あらゆる年齢のすべての人の健康的な生活を確保し、福祉を推進することを定めた目標です。
「医療従事者や国が取り組むこと」と思われがちですが、実は私たちの経済活動や日常生活と密接に関わっています。世界では感染症や周産期医療が課題の中心である一方、日本では「健康寿命の延伸」や「メンタルヘルス」が喫緊の課題となっているのです。
この記事では、SDGs目標3の具体的な内容と現状の課題、そして企業や私たちが今日からできる具体的な取り組みについて、最新データを交えて解説します。
SDGs目標3「すべての人に健康と福祉を」の核心とターゲット
SDGsの目標3は、単に病気を治すことだけを指しているのではありません。予防医療、心の健康、交通事故の減少、そしてユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)の達成など、広範囲なターゲットが設定されています。
特に重要な概念がUHCです。これは「すべての人が、適切な予防、治療、リハビリなどの保健医療サービスを、支払い可能な費用で受けられる状態」を指します。WHO(世界保健機関)は「健康は人権であり、経済繁栄の基盤である」と位置づけており、2030年までに誰一人取り残さない医療体制の構築を目指しています。
また、近年では気候変動による熱帯病の拡大や、パンデミックへの備えも目標3の重要な要素として再認識されています。以下の表で、世界と日本が直面している課題の違いを整理しました。
| 項目 | 世界の主な課題(途上国中心) | 日本の主な課題(先進国) |
|---|---|---|
| 平均寿命 | 医療アクセス不足による短命 | 世界トップクラスだが健康寿命との差が大 |
| 主な死因 | 感染症(HIV、マラリア、結核など) | 非感染性疾患(がん、心疾患、糖尿病) |
| 母子保健 | 出産時の死亡率が高い | 産科医不足、産後うつなどのケア |
| 社会問題 | 衛生環境、ワクチン不足 | 医療費増大、少子高齢化、メンタルヘルス |
世界と日本が直面する「健康」における深刻な課題
世界の課題:感染症と母子保健の現実
世界では依然として、予防可能な病気や出産のリスクで命を落とす人々が後を絶ちません。ユニセフなどの報告によると、1990年以降、5歳未満児の死亡率は半減したものの、依然として年間約490万人(2022年推計)の子どもたちが5歳の誕生日を迎えられずに亡くなっています。
また、三大感染症も未だ大きな脅威です。2022年の世界の新規HIV感染者数は約130万人と推計されています。
特に警戒が必要なのがマラリアです。WHOの最新報告によると、世界のマラリア症例数は約2億8,000万件(前年比増)に達し、温暖化による媒介蚊の生息域拡大も懸念されています。サハラ以南のアフリカ諸国を中心に、適切な治療薬へのアクセスや予防教育が行き届いていない地域が残されています。
さらに、妊産婦の死亡率も地域格差が顕著です。安全な水や衛生環境、熟練した助産師の不足により、途上国では出産が命がけの行為となっています。
参考:UNAIDS Fact Sheet、WHO Malaria Fact sheet
日本の課題:健康寿命と平均寿命のギャップ
日本は世界有数の長寿国ですが、単に長く生きることだけでなく「健康で自立して生活できる期間(健康寿命)」を延ばすことが最大の課題です。
厚生労働省のデータによると、平均寿命と健康寿命の間には、男性で約8~9年、女性で約11~12年の差があります。この期間は、介護や医療の支援が必要となる期間を意味しており、本人のQOL(生活の質)低下だけでなく、社会保障費の増大や介護負担の問題にも直結します。
がん、心疾患、脳血管疾患などの非感染性疾患(NCDs)が死因の多くを占めており、これらは喫煙、不健康な食事、運動不足などの生活習慣と深く関わっています。若年層からの予防意識の向上と、高齢者の社会参加促進が急務です。
深刻化するメンタルヘルスと交通安全の問題
身体の健康と同様に重要なのが「心の健康」です。世界的にうつ病や不安障害が増加傾向にあり、日本でも労働者のメンタルヘルス不調や若年層の自殺率の高さが社会問題化しています。
精神疾患は「見えない障害」となりやすく、早期発見や職場・学校でのサポート体制の構築が必要です。SDGsのターゲット3.4でも「精神保健及び福祉を促進する」と明記されています。
また、ターゲット3.6では「道路交通事故による死傷者数を半減させる」ことが掲げられています。WHOによると、世界で年間約119万人が交通事故で命を落としています。日本では死者数は減少傾向にありますが、高齢ドライバーによる事故や、歩行中の高齢者が犠牲になるケースが依然として課題です。
企業・自治体が実践するSDGs目標3への取り組み
企業:健康経営の実践事例
企業にとって従業員の健康は、コストではなく「投資」であるという考え方(健康経営)が定着しつつあります。経済産業省が推進する「健康経営優良法人」認定制度などを通じ、多くの企業がユニークな取り組みを行っています。
具体的な取り組み事例
- ウォーキングイベントの開催:アプリを活用して歩数を競い合い、達成者にインセンティブ(ポイントや景品)を付与する。
- 食生活の改善:社員食堂で低カロリー・減塩の「SDGsメニュー」を提供したり、オフィス内の自販機を健康志向のラインナップに入れ替える。
- 睡眠改善プログラム:ウェアラブル端末で睡眠の質を可視化し、専門家による睡眠指導を実施して生産性向上につなげる。
自治体:地域包括ケアシステムと予防医療
自治体では、高齢者が住み慣れた地域で最期まで自分らしく暮らせるよう「地域包括ケアシステム」の構築を進めています。医療・介護・予防・住まい・生活支援を一体的に提供する仕組みです。
具体的には、公民館を活用した健康体操教室の開催や、保健師による家庭訪問、特定健康診査(メタボ健診)の受診率向上キャンペーンなどが挙げられます。また、データヘルス計画に基づき、地域の健康課題(例:高血圧が多い、塩分摂取量が多いなど)を分析し、エビデンスに基づいた対策を打つ自治体も増えています。
テクノロジーとイノベーションが拓く未来の医療
SDGs目標3の達成には、医療技術の革新(イノベーション)が不可欠です。最新のテクノロジーが、医療格差の解消や早期発見に貢献しています。
AI診断と早期発見
AI(人工知能)を活用した画像診断支援システムが普及し始めています。X線やCT画像からAIががんや肺炎の兆候を検知することで、医師の負担を軽減しつつ、見落としを防ぐ効果が期待されています。特に専門医が不足している地域において、AIは強力なサポーターとなります。
遠隔医療(オンライン診療)の普及
スマートフォンやPCを使って医師の診察を受ける「オンライン診療」は、コロナ禍を経て定着しつつあります。特にコロナ禍の要件緩和後、実施回数は大幅に増加しており、慢性疾患の定期フォローやメンタルヘルス相談での活用が進んでいます。
5G通信の普及により、離島やへき地にいる患者と都市部の専門医をリアルタイムでつなぐことも可能になり、地理的な医療格差の是正に大きく貢献しています。
ウェアラブル端末による日常管理
スマートウォッチなどのウェアラブル端末は、心拍数、睡眠の質、血中酸素レベルなどを24時間モニタリングできます。異常を検知した際にアラートを出したり、データを医師と共有したりすることで、病気の予兆を捉える「予防医療」の最前線として注目されています。
私たち個人ができる身近なアクション
生活習慣の見直しと感染症対策
目標3の達成に向けて、個人ができる最も基本的かつ効果的なアクションは、自分自身の健康管理です。
- 定期的な健康診断:病気の早期発見・早期治療は、医療資源の節約にもつながります。
- 適切な運動と食事:生活習慣病のリスクを減らすことは、将来的な介護リスクの軽減になります。
- ワクチン接種:自分を守るだけでなく、周囲への感染拡大を防ぐ集団免疫の獲得に貢献します。
- 手洗い・うがいの徹底:基本的な衛生習慣は、多くの感染症予防に有効です。
40代から始める健康習慣|中高年の食事・運動・睡眠セルフケア術
社会的な支援活動への参加
自分の健康を守るだけでなく、他者を支える活動も重要です。
- 献血:輸血を必要とする患者さんの命を救う、最も身近なボランティアです。
- 寄付:開発途上国へワクチンを届ける認定NPO法人などへの寄付は、世界の医療格差是正に直結します。
- 交通ルールの遵守:安全運転を心がけること、歩行者優先を守ることは、ターゲット3.6の達成に寄与します。
- 正しい知識の普及:メンタルヘルスや感染症に対する偏見(スティグマ)をなくすため、正しい情報を学び発信することも大切なアクションです。
まとめ:一人ひとりの健康が持続可能な社会をつくる
SDGs目標3「すべての人に健康と福祉を」は、世界中の人々の命を守る壮大なテーマであると同時に、私たちの毎日の生活習慣と地続きの目標です。
日本では特に、健康寿命の延伸とメンタルヘルスケアが鍵となります。企業は健康経営を通じて従業員を守り、自治体は地域全体で高齢者を支え、個人は自らの健康を管理する。この連携こそが、誰一人取り残さない社会の実現につながります。
まずは、次回の健康診断を予約する、地域の検診情報を確認するなど、小さな一歩から始めてみませんか。

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