毎年3月3日の桃の節句が近づくと、どこからともなく聞こえてくる「あかりをつけましょ ぼんぼりに」というメロディー。
日本人なら誰もが知っている国民的な童謡『うれしいひなまつり』ですが、実はこのひな祭りの歌詞について、ネット上でさまざまな噂が飛び交っているのをご存知でしょうか。
「実は放送禁止になった幻の5番があるらしい」
「歌詞の裏には怖い理由や呪いが隠されている」
「プロの作詞者が致命的な間違いを犯している」
このように、華やかなお祝いの歌とは思えないような、ミステリアスな話題が尽きません。
なぜ、子供向けの可愛らしい童謡に、このような不気味な噂がつきまとっているのでしょうか。
結論からお伝えすると、ひな祭りの歌詞に「5番」は存在しません。しかし、「怖い」と言われる理由や「歌詞の間違い」については、作詞者の悲しい過去や人間らしい勘違いという、明確な事実が隠されています。
この記事では、ひな祭りの歌詞にまつわる数々の疑問や都市伝説の真相について、詳しく紐解いていきます。
最後までお読みいただければ、今年のひな祭りがいつもより少しだけ奥深く、そして切なく感じられるはずです。
ひな祭りの歌詞は5番まである?その真相を徹底解説
結論:童謡「うれしいひなまつり」は「4番」まで
インターネット上でまことしやかに囁かれている「ひな祭りの歌詞には5番が存在する」という都市伝説。
どこかで一度は耳にしたことがある方もいらっしゃるかもしれませんね。
しかし、結論から申し上げてしまうと、この歌は「4番まで」というのが正しい情報です。
作詞を担当したサトウハチロー氏、そして作曲を手掛けた河村光陽氏が発表したオリジナルの楽譜や、当時発売されたレコードの歌詞カードを確認しても、1番から4番までの歌詞しか記載されていません。
1番は「ぼんぼり」や「五人囃子」の華やかな様子、2番は「お内裏様とお雛様」、3番は「金の屏風と右大臣」、そして最後の4番は「着物を着替えた私の晴れ姿」を描いて終わります。
物語としても4番で美しく完結しており、そこに付け足すべき「幻の5番」が入り込む余地はないのです。
ネット上で「5番まである」と囁かれるようになった背景
では、全く存在しないはずの「5番」という言葉が、なぜこれほどまでに世間に定着してしまったのでしょうか。
その理由の一つとして考えられるのが、インターネット特有の「情報の尾ひれ」や都市伝説ブームの影響です。
ネット掲示板やSNSでは、誰もが知っている有名な作品に対して「実は裏設定がある」「幻の続きが存在する」といった話題が非常に好まれる傾向にあります。
例えば「国民的アニメには怖い裏設定がある」といった噂と同じように、「ひな祭りの歌詞にも、放送禁止になった恐ろしい5番があるらしい」という根拠のない噂が、面白半分で拡散されてしまった可能性が高いのです。
人間の「隠された秘密を知りたい」という好奇心が、存在しない5番を作り上げてしまったと言えるでしょう。
なぜ「5」という数字が独り歩きしたのか?
噂が広まったもう一つの有力な理由として、ひな祭りという行事自体に「五」という数字が深く関わっていることが挙げられます。
ひな人形を飾る際、本格的なものになると「五段飾り」や「七段飾り」が用いられますよね。
さらに歌詞の中にも「五人囃子の笛太鼓(ごにんばやしのふえたいこ)」と、はっきりと「五」というワードが登場しています。
私たち人間の記憶というのは非常に曖昧なもので、関連するキーワードが頭の中で混ざり合ってしまうことがよくあります。
「ひな祭りといえば五段飾りだったな」「五人囃子が出てくる歌だったな」という記憶が、いつの間にか「ひな祭りの歌詞は5番まであったはずだ」という無意識の思い込みにすり替わってしまったのではないでしょうか。
数字のマジックが引き起こした、集団的な勘違いとも言えそうです。
現代における音楽教育の変化とフルコーラスの減少
さらに勘違いを加速させている要因として、現代の私たちがフルコーラス(全曲)を耳にする機会が極端に少ないという実情があります。
テレビの季節のニュースや、幼稚園・保育園のお遊戯の時間などでこの歌が流れる際、時間の都合上「1番と2番だけ」が歌われるケースが圧倒的に多いのです。
そのため、多くの人は「お嫁にいらした姉様に〜」という2番の終わりまでしか歌詞を正確に覚えていません。
3番や4番の存在すら曖昧になっている状態だからこそ、「実は5番まであるんですよ」と誰かに言われたとき、「そういえば続きがあったような気がする!」と簡単に信じ込んでしまうのです。
日常的に最後まで歌う機会が減ってしまった現代だからこそ生まれた、現代ならではの噂なのかもしれませんね。
ひな祭りの歌詞やメロディーが「怖い」と言われる理由
子供向け童謡としては異例の「短調(マイナーコード)」
ひな祭りの歌詞について調べる中で、最も多く目にするのが「なんだか怖い」「不気味に感じる」という意見です。
女の子の成長を祝う春の楽しい行事なのに、なぜそのようなネガティブな感情を抱く人が多いのでしょうか。
その最大の要因は、この曲が「短調(マイナーコード)」で作られていることにあります。
一般的な子供向けの童謡、例えば「チューリップ」や「どんぐりころころ」などは、明るく弾むような長調(メジャーコード)で作られています。
しかし『うれしいひなまつり』は、どこか哀愁を帯びた、少し暗く寂しげなメロディーラインを採用しているのです。
この特有の物悲しさが、まだ言葉の意味を深く理解できない小さな子供たちの耳には、「お化け屋敷で流れてきそうな不気味な曲」としてインプットされてしまうのでしょう。
「ヨナ抜き短音階」がもたらす独特の物悲しさと郷愁
さらに音楽的に深掘りすると、この曲には「ヨナ抜き短音階」という日本特有の音階が使われています。
西洋音楽のドレミファソラシドから、4番目の「ファ」と7番目の「シ」を抜いた音階のことで、演歌や昔の歌謡曲によく見られる手法です。
このヨナ抜き短音階を用いると、日本人のDNAに語りかけるような強い郷愁や、独特の情念を表現することができます。
西洋のポップスのような底抜けに明るいリズムではなく、日本の伝統楽器であるお琴や尺八に合うような、しっとりとした「和」の情緒を表現したかったのだと推測できます。
上品で雅やかな雰囲気を醸し出すことには成功したのですが、それが結果的に現代の感覚からは「少し怖い」と受け取られてしまう皮肉な結果を生んでしまいました。
「怖い」という感情の裏に隠された心理的メカニズム
メロディーの暗さに加えて、歌詞の内容そのものが深読みされやすいことも「怖い」というイメージに拍車をかけています。
特に2番の歌詞に登場するフレーズは、大人になってからじっくり読み返すと、単なるお祝いの歌とは思えないような深い情念を感じさせます。
インターネットの普及により、作詞家の生い立ちや曲の作られた背景を誰でも簡単に調べられるようになりました。
その結果、単なる春の童謡としてではなく、「亡き人へのレクイエム(鎮魂歌)」としての側面がクローズアップされるようになったのです。
明るいタイトルとは裏腹に、行間に隠された悲しいエピソードを知ってしまうと、もう二度と以前と同じようには聴けなくなってしまうという声も少なくありません。
歌詞に込められた作詞者・サトウハチローの悲しい過去
「お嫁にいらした姉様」のモデルとなった実姉の存在
ひな祭りの歌詞が怖いと言われる最大の理由。それは、2番の歌詞にある「お嫁にいらした ねえさまに よく似た官女の 白い顔」というフレーズに隠された、作詞家・サトウハチロー氏の実体験にあります。
この「ねえさま」というのは架空の人物ではなく、ハチロー氏の実の姉(または妹という説もあり)をモデルにしていると言われているのです。
大正から昭和初期にかけて、日本の国民病として恐れられていたのが「結核」でした。
当時、不治の病とされていたこの病魔が、ハチロー氏にとって良き理解者であり、ピアノの先生でもあった大好きなお姉さんを襲います。
幼い頃に怪我をして外で活発に遊べなかった彼にとって、お姉さんは世界で一番身近で、優しくて、頼りになる存在だったはずです。
18歳で夭折した姉への思いと「官女の白い顔」
悲劇的なことに、その大好きなお姉さんは、なんと嫁ぎ先が決まった直後に結核をこじらせ、わずか18歳という若さでこの世を去ってしまいました。
18歳といえば、これからまさに人生の春を迎え、女性として一番輝くはずの時期です。
幸せの絶頂から一転、帰らぬ人となってしまった姉の死は、弟であるハチロー氏の心にどれほど深い傷を残したでしょうか。
歌詞にある「官女の白い顔」という表現は、一般的にはおしろいを塗った美しい顔を指します。
しかし、この悲しい背景を知った上で歌詞を味わうと、病魔に冒され、血の気を失って青白くなっていくお姉さんの顔を、人形の真っ白な顔に重ね合わせていたのではないかと考えさせられます。
この事実が、後年になって「白い顔=死に顔」という恐ろしい解釈へと繋がり、怖い都市伝説を生み出す発端となってしまいました。
花嫁姿を見られなかった弟からの切ないプレゼント
現実世界では、お姉さんはついにウェディングドレス(白無垢)を着ることはできませんでした。
しかしハチロー氏は、歌詞の中で「お嫁にいらした ねい様に」とあえて書いています。
これには、「せめて自分の作った歌の中だけでも、大好きだった姉をお嫁に行かせてあげたい」という、弟としての強烈な願いと愛情が込められていると言われています。
現実には叶わなかった姉の幸せな姿を、華やかなひな人形の世界に託して永遠のものにする。
これは、作詞家という言葉を紡ぐ職業を選んだハチロー氏から亡き姉へ贈る、世界で最も優しく、そして切ないプレゼントだったのです。
そう考えると、この歌に流れる物悲しい雰囲気の理由が、すっと腑に落ちる気がしますよね。
プロの作詞家が犯した?ひな祭りの歌詞にある「2つの間違い」
間違いその1:「お内裏様とお雛様」という重大な矛盾
悲しいエピソードだけでなく、実はこのひな祭りの歌詞には、作詞者が犯してしまった「2つの決定的な間違い」が存在します。
一つ目は、誰もが何の疑問も持たずに歌っている1番の冒頭、「お内裏様(おだいりさま)とお雛様(おひなさま)」というフレーズです。
私たちはこの歌詞の影響で、一番上に座っている男性の人形を「お内裏様」、女性の人形を「お雛様」だと信じ込んでいます。
しかし本来、「内裏(だいり)」というのは天皇の住まいを意味し、「お内裏様」とは男雛と女雛の「男女ペア(2人一組)」のことを指す言葉なのです。
そして「お雛様」とは、ひな壇に並んでいるすべての人形(三人官女や五人囃子も含む)の総称を指します。
つまり、「お内裏様とお雛様が二人並んで」という表現は、日本語として完全に矛盾してしまっているわけです。
正しくは「お殿様とお姫様」とするべきでした。
間違いその2:「赤いお顔の右大臣」は左右が逆だった
二つ目の間違いは、3番の歌詞に登場する「少し白酒めされたか 赤いお顔の右大臣」という部分です。
これも、ひな人形の並び方を知っている専門家からすると、あり得ない勘違いなのです。
ひな壇の四段目には、弓矢を持った二人の随身(ずいじん)が並んでいます。
向かって右側(お雛様から見て左)にいるのは、長いヒゲを生やし、お酒を飲んで顔が赤くなっている年配の「左大臣」です。
逆に向かって左側(お雛様から見て右)にいるのが、若くて色白の顔をした「右大臣」となります。
そう、赤い顔をしているのは右大臣ではなく、本当は「左大臣」が正解なのです。
サトウハチロー氏は、自分から見て右と左をうっかり逆に勘違いしたまま作詞をしてしまったのだと言われています。
【比較表】歌詞の表現と本来の正しい知識の一覧
言葉だけでは少し分かりにくいかもしれませんので、ひな祭りの歌詞と、本来の正しい知識を比較表にまとめました。
これを見れば、どこがどう間違っているのかが一目で理解できるはずです。
| 歌詞のフレーズ | 歌詞から誤解されている意味 | 本来の正しい意味・知識 |
|---|---|---|
| お内裏様とお雛様 | 一番上の男性人形と女性人形 | お内裏様=男雛と女雛のペアのこと お雛様=段飾りにあるすべての人形のこと ※正しくは「お殿様とお姫様」 |
| 赤いお顔の右大臣 | 右にいる大臣がお酒で顔が赤い | 赤い顔をしているのは「左大臣」(向かって右) 右大臣(向かって左)は若くて色白の顔 |
このように表で整理してみると、いかに私たちが一つの歌の影響で、間違った知識を長年インプットしてしまっているかが分かりますよね。
サトウハチロー本人が間違いを深く悔やんでいた事実
「プロの作詞家が、なぜこんな初歩的なミスに気づかなかったのか?」と不思議に思うかもしれません。
当時の時代背景として、今のようにインターネットですぐに検索できる環境はなく、思い込みのまま書き上げてしまったのでしょう。
周囲の誰も間違いに気づかないままレコード化され、あっという間に全国の大ヒット曲となってしまいました。
後になって自分の致命的な勘違いに気づいたサトウハチロー氏ですが、時すでに遅し。
もはや歌詞を訂正することは不可能なほど、国民的な歌として定着してしまっていたのです。
完璧主義だった彼はこのミスを晩年まで深く恥じており、自分の前でこの『うれしいひなまつり』を歌われることや、ラジオで流されることを極端に嫌がっていたというエピソードが残されています。
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誤解や悲しい背景を持つこの曲を子供たちへどう伝えるべきか
「怖い歌」「間違っている歌」と単純に否定しない
もし、あなたのお子さんや周りの子供たちから「ひな祭りの歌って、本当は怖いの?」「歌詞が間違ってるって聞いたよ」と尋ねられたら、大人の私たちはどう答えるべきでしょうか。
「そんなのデマだから気にしなくていいよ」と突き放すのも、「実は死んだお姉さんの歌なんだよ」と怖がらせるのも、少し違う気がしますよね。
間違いがあるからといって、この歌の価値が下がるわけでは決してありません。
「作詞した人がうっかり左右を間違えちゃったんだって。人間らしくて面白いよね」
「病気で亡くなった大好きなお姉さんに、お嫁さんの服を着せてあげたかった優しい歌なんだよ」
このように、間違いや悲しい背景を「人間味あふれる温かいエピソード」として変換して伝えてあげることが、一番の正解ではないでしょうか。
曲の根底に流れる「健やかな成長を願う親心」
少し暗いメロディーや、個人的な悲しい思い出が隠されていたとしても、この曲の根底に流れているのは間違いなく「愛情」です。
亡き姉を思う弟の底知れぬ愛情。そして、美しいひな人形を前にして、目の前にいる女の子の健やかな成長と幸せを願う、親から子への愛情。
歌詞の最後である4番は、「はるのやよいの このよきひ なによりうれしい ひなまつり」という、希望に満ちた明るい言葉で締めくくられています。
ここに嘘や偽りは一切ありません。
過去の悲しみを乗り越えて、今の目の前にある「命の輝き」を全力でお祝いしようという、力強いメッセージとして受け取るべきなのです。
完璧ではないからこそ時代を超えて愛され続ける名曲
『うれしいひなまつり』が世に発表されたのは、昭和11年(1936年)のことです。
それから約90年もの長い間、時代がどれだけ変化しても、日本の春の風物詩として愛され続けてきました。
歌詞に多少の勘違いが含まれていようと、ネット上で都市伝説が作られようと、このメロディーを聴くと反射的に心が弾み、春の訪れを感じるという事実は変わりません。
完璧ではないからこそ、そこにドラマがあり、人々の心に深く寄り添い続けることができるのかもしれませんね。
今年のひな祭りは、ぜひ1番から4番まで、歌詞の奥にあるストーリーに思いを馳せながら、ご家族でゆっくりと聴いてみてはいかがでしょうか。
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まとめ
今回は、童謡『うれしいひなまつり』にまつわる様々な疑問や噂の真相について解説してきました。
記事のポイントを以下にまとめます。
- ひな祭りの歌詞は「4番まで」であり、5番が存在するという噂は完全にデマ。
- 「5番がある」と勘違いされるのは、五人囃子などの「五」の印象や、普段2番までしか歌われないことが原因。
- 歌が「怖い」と言われるのは、ヨナ抜き短音階のメロディーと、作詞者の姉が18歳で病死した悲しいエピソードがあるため。
- 「白い顔」は、結核で亡くなった姉の姿を官女に重ね合わせたものだと言われている。
- 歌詞には「お内裏様とお雛様」「赤いお顔の右大臣」という2つの大きな間違いが存在する。
- 作詞者のサトウハチロー氏は、この間違いを晩年まで深く後悔していた。
当たり前のように口ずさんでいた童謡の中に、これほどまでに人間臭く、そして切ないドラマが隠されていたとは驚きですよね。
間違いすらも文化の一部として受け入れ、後世へと歌い継いでいく。それもまた、日本の素晴らしい伝統文化の形なのかもしれません。
今年のひな祭りは、ぜひ正しい知識と優しいエピソードを交えながら、お子さんと一緒に楽しく歌ってお祝いしてください。
参考:ひな祭りの由来と料理の意味は?人形の飾り方から楽しみ方まで完全解説
