レクサスといえば、多くの人があの個性的で迫力のあるフロントグリルを思い浮かべるのではないでしょうか。「レクサス顔」とも呼ばれるそのデザインの正体は、「スピンドルグリル」です。
今でこそレクサスの象徴として広く認知されていますが、登場した当初は「斬新すぎる」「デザインが強すぎる」と、かなりの賛否両論を巻き起こしました。
しかし、レクサスはこのデザインを一貫して採用し続け、ブランドの顔として定着させることに成功します。
この記事では、スピンドルグリルがどのようにして「レクサス顔」となり、そして最新の「スピンドルボディ」へとどのように進化しているのか、その背景と特徴を分かりやすく解説していきます。
スピンドルグリルとは?「レクサス顔」の正体
レクサス車に共通する、あの印象的なフロントフェイス。それが「スピンドルグリル」です。まずは、その基本的な情報とデザインの由来について見ていきましょう。
いつから始まった?2012年「GS」が転機

スピンドルグリルがレクサスの全ラインナップに本格的に採用され始めたのは、2012年に発表された4代目「GS」からです。もちろん、それ以前のモデル(2011年のCTなど)でも、その原型となるデザインは採用されていましたが、現在のような一体型で大胆な形状が明確に打ち出されたのは、このGSが大きな転機となりました。
当時のプレミアムカー市場では、ドイツ車に代表されるような、落ち着きと伝統を重んじるデザインが主流でした。その中で登場したスピンドルグリルは、良くも悪くも非常に目立つ存在だったのです。
レクサスは、このGSを皮切りに、フラッグシップセダンの「LS」や人気SUVの「RX」、スポーツクーペの「RC」など、ほぼ全ての車種にこのスピンドルグリルを展開。ブランドのアイデンティティとして、急速に浸透させていきました。
デザインの由来は「紡錘(ぼうすい)」

「スピンドル(Spindle)」とは、日本語で「紡錘(ぼうすい・つむ)」を意味します。紡錘とは、糸を紡ぐ(つむぐ)ために使われる、中央が太く両端が細くなった棒状の道具のことです。
スピンドルグリルのデザインは、まさにこの紡錘の形がモチーフになっています。上下の台形を組み合わせたような、中央がくびれた独特の形状は、この「スピンドル」の形を2つ合わせたもの(ダブルスピンドル)とされています。
また、このデザインは見た目のインパクトだけでなく、機能性も両立させているのが特徴です。グリル上部はエンジンルームの冷却効率を高め、下部はブレーキダクトへ効率よく空気を送り込む役割を担っています。
レクサスのデザイン哲学である「L-finesse(エル・フィネス=Leading-Edge(先鋭)とFinesse(精妙)の融合)」を体現する、機能美を伴ったデザインだと言えるでしょう。
衝撃デビューから現在までの「進化」
2012年の登場以来、スピンドルグリルはレクサスの象徴であり続けましたが、そのデザインは時代と共に少しずつ「進化」を遂げてきました。特に近年の変化は、レクサスの新たなステージを感じさせます。
登場時は賛否両論?デザインの狙い
前述の通り、スピンドルグリルが登場した当初の反響は、まさに賛否両論でした。「個性的でかっこいい」「レクサスだと一目でわかる」という好意的な意見があった一方で、「威圧感が強すぎる」「日本の美意識と違う」といった否定的な声も少なくありませんでした。
特に、それまでのレクサスが持っていた「上品」「落ち着きがある」といったイメージを期待していた層にとっては、あまりに大胆な変化に戸惑いがあったのも事実です。
しかし、レクサスには明確な狙いがありました。それは、他のプレミアムブランド(メルセデス・ベンツ、BMW、アウディなど)と明確に差別化できる、強力な「ブランドの顔」を作ることです。
あえて賛否が分かれるような強いデザインを採用することで、「退屈な優等生」のイメージを払拭し、エモーショナル(感情的)でダイナミックなブランドへと変革するという強い意志の表れだったのです。
最新形「スピンドルボディ」とは?(フレームレス化)

長らくレクサス顔を支えてきたスピンドルグリルですが、2020年代に入り、新たなフェーズへと進化しました。それが「スピンドルボディ」です。
この新しいデザインアプローチは、2022年に登場した新型SUV「RX」や、レクサス初のEV専用モデル「RZ」などで本格的に採用されています。
最大の特徴は、これまでスピンドルグリルを縁取っていた「メッキフレーム」がなくなり、グリルとボディがシームレスに融合している点です。
EV(電気自動車)は、従来のガソリン車ほど大きな冷却口(グリル)を必要としません。そのため、デザインの自由度が上がり、グリルを「穴」としてではなく、ボディの一部として立体的に表現することが可能になりました。
これまでの威圧感を少し和らげつつ、より未来的で洗練された「レクサス顔」を生み出すことに成功しています。
【比較表】スピンドルグリルとスピンドルボディの違い
ここで、従来の「スピンドルグリル」と最新の「スピンドルボディ」の違いを簡単に比較してみましょう。
| 比較項目 | スピンドルグリル(従来) | スピンドルボディ(最新) |
|---|---|---|
| 主な特徴 | メッキフレームで縁取られている | フレームがなくボディと一体化 |
| デザイン | グリル(穴)としての存在感が強い | ボディの立体表現の一部 |
| 主な採用車種 | 4代目GS、現行LS、3代目IS、NX(初代)など | 新型RX、RZなど |
| 背景 | ガソリン車が主体(冷却機能重視) | EV・電動化へのシフト(空力性能重視) |
| 与える印象 | 威圧感、迫力、ラグジュアリー | 未来感、洗練、シームレス |
もちろん、これは大まかな分類であり、スピンドルグリルの中にも細かいデザイン(メッシュの模様など)の違いは多数存在します。スピンドルボディへの移行は、レクサスが電動化時代に向けて、デザインも大きく変革させている証拠と言えそうです。
なぜレクサスは「顔」にこだわるのか?
レクサスはなぜ、これほどまでに「顔」のデザインにこだわり、統一感を追求するのでしょうか。それには、プレミアムブランドとしての戦略が深く関わっています。
一目でわかる「ブランドの象徴」
自動車にとって「フロントフェイス(顔)」は、人間でいう「表情」と同じくらい重要な要素です。道ですれ違った瞬間に、「あ、あのクルマだ」と認識できるかどうかは、ブランドの認知度に直結します。
スピンドルグリル(ボディ)という強烈なアイコンを採用することで、レクサスは「一目でレクサスとわかる」という強力なブランドアイデンティティを確立しました。
たとえクルマに詳しくない人でも、「あの『L』のエンブレムと、特徴的なグリルのクルマはレクサス」と認識できるようになったのは、このデザイン戦略の大きな成果です。
デザインに一貫性を持たせることは、ブランドの「格」や「世界観」を構築する上で欠かせない要素なのです。
BMWやアウディも実践する「ファミリーフェイス」戦略
こうした「顔」を統一する戦略は、「ファミリーフェイス」と呼ばれ、レクサス以外の多くのプレミアムブランドも採用しています。
代表的な例が、BMWの「キドニーグリル」や、アウディの「シングルフレームグリル」です。
BMWは、あの2つに分かれた「腎臓(Kidney)」ような形のグリルを、古くからブランドの象徴として使い続けています(近年は大型化が話題ですが)。アウディも、大きな台形のシングルフレームグリルを全車に採用し、スポーティーで知的なイメージを定着させました。
こうした強力なライバルたちに対抗し、グローバル市場で「レクサス」というブランドを明確に印象付けるために、スピンドルグリルという「最強の武器」が必要だったわけです。
まとめ:スピンドルはレクサスのアイデンティティ
登場から10年以上が経過し、スピンドルグリルは当初の賛否両論を乗り越え、見事に「レクサス顔」として定着しました。
そして今、電動化という新しい時代を迎え、そのデザインは「スピンドルボディ」へとさらなる進化を遂げようとしています。
この特徴的な「スピンドル」の形状は、もはや単なるデザインではなく、常に変化と挑戦を続けるレクサスというブランドの「アイデンティティ(自己同一性)」そのものと言えるでしょう。
次に街でレクサスを見かけたときは、その「顔」がスピンドルグリルなのか、それとも最新のスピンドルボディなのか、ぜひチェックしてみてください。



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