
ヒーローズ・ジャーニー(英雄の旅)とは? 物語の12段階・17段階の違いと構造を解説
この記事では、ジョセフ・キャンベルの「ヒーローズ・ジャーニー(英雄の旅)」と、それをもとに後の研究者たちが整理した代表的な12段階の構造について解説します。ポイントは、キャンベル本人が「12段階」を提示しているわけではなく、彼が説いた「17の段階」をもとにクリストファー・ヴォグラーなどの研究者がより実践的にまとめたフォーマットだという点です。
- キャンベルの「モノミス(Monomyth)」とは
- (参考)12段階で見るヒーローズ・ジャーニー
- 日常世界(The Ordinary World)
- 冒険への呼び声(The Call to Adventure)
- 呼び声の拒否(Refusal of the Call)
- 賢者との出会い(Meeting with the Mentor)
- 第一関門の通過(Crossing the Threshold)
- 試練・仲間・敵(Tests, Allies, Enemies)
- 最奥への接近(Approach to the Inmost Cave)
- 最大の試練(The Ordeal)
- 報酬(The Reward)
- 帰路(The Road Back)
- 復活(Resurrection)
- エリクサーを持って帰還(Return with the Elixir)
- まとめ
キャンベルの「モノミス(Monomyth)」とは
ジョセフ・キャンベル(1904–1987)は、比較神話学や宗教学を研究し、世界中の神話や物語に共通するパターンを指摘しました。彼はこれを「モノミス(Monomyth)」と呼び、日本語では「モノミス神話」や「単一神話理論」と訳されることがあります。キャンベルは、その概要を著書『千の顔をもつ英雄(The Hero with a Thousand Faces)』の中で示し、「人類共通の物語構造がある」という考えを広く知らしめました。
「17の段階」と「12の段階」の違い
キャンベルは自著で「17の段階」を定義していますが、後の研究者であるクリストファー・ヴォグラー(Christopher Vogler)は、脚本術などの実務に活かしやすいように12段階に再構築しました。今日、「ヒーローズ・ジャーニー」を語る際には、この12段階のフレームワークが広く普及しています。しかし、あくまで「キャンベルのオリジナルは17段階」「12段階はヴォグラーらによる整理」と理解しておくと混乱を避けられます。
キャンベルが『千の顔をもつ英雄』で提示した「17の段階」は、より詳細な神話の構造を示しています。その一部を紹介すると、以下のようになります。
- 日常世界(The Ordinary World)
- 冒険への呼び声(The Call to Adventure)
- 呼び声の拒否(Refusal of the Call)
- 超自然的な助け(Supernatural Aid)
- 第一関門の通過(Crossing the First Threshold)
- しきたりの道(The Road of Trials)
- 女神との出会い(Meeting with the Goddess)
- 女性としての誘惑(Woman as Temptress)
- 父なる存在との和解(Atonement with the Father)
- 自己の変容(Apotheosis)
- 最高の恩恵(The Ultimate Boon)
- 帰還拒否(Refusal of the Return)
- 魔法の逃走(The Magic Flight)
- 外的救済(Rescue from Without)
- 帰還の門を越える(Crossing the Return Threshold)
- 二つの世界の統合(Master of Two Worlds)
- 自由な生(Freedom to Live)
12段階の「ヒーローズ・ジャーニー」は、この17段階をベースにしたシンプルな形ですが、元の17段階ではより細かく「英雄の内面の変化」や「神話的要素」が強調されています。
(参考)12段階で見るヒーローズ・ジャーニー
ここでは、実際に物語構成でよく使われる12段階を、キャンベルの理論を踏まえつつ簡潔に紹介します。
以下は、ヴォグラーが整理した12段階のフレームワークです。
※あくまでもヴォグラーによる整理をベースにしたフォーマットであることに留意してください。
日常世界(The Ordinary World)
主人公が普段暮らしている“普通の”環境・状況です。読者や観客はここで主人公の性格や背景に触れます。
冒険への呼び声(The Call to Adventure)
非日常の世界へ飛び出すきっかけとなる出来事や依頼。主人公はここで物語の目的や使命を与えられます。
呼び声の拒否(Refusal of the Call)
未知や危険を恐れ、冒険に踏み出すことをためらいます。しかし、その後起こる出来事が主人公を冒険へと駆り立てます。
賢者との出会い(Meeting with the Mentor)
主人公を導くメンターとの出会い。助言や訓練、時にはアイテムなどを受け取り、主人公の迷いを取り払います。
第一関門の通過(Crossing the Threshold)
主人公がいよいよ日常世界を離れ、未知の世界へ足を踏み入れます。この段階を越えると、後戻りはできなくなります。
試練・仲間・敵(Tests, Allies, Enemies)
未知の世界において、主人公はさまざまな試練を経験し、仲間や敵と出会います。これらの試練を通じて主人公は成長します。
最奥への接近(Approach to the Inmost Cave)
物語の核心へと近づく段階。物理的な場所だけでなく、内面の葛藤や深層心理と向き合うことも含まれます。
最大の試練(The Ordeal)
主人公が死の危機や最大の敵と対峙し、最も苦しい試練を経験します。ここで得られる気づきや変化が、主人公の真の成長を促します。
報酬(The Reward)
最大の試練を乗り越えたことで、物語の鍵となる報酬(宝、知恵、仲間の救出など)を手にします。
帰路(The Road Back)
得たものを携えて元の世界に戻ろうとします。しかし、この過程で最後の障害や追撃が起こることも少なくありません。
復活(Resurrection)
物語のクライマックスとして、主人公は再び大きな危機に直面し、象徴的な「死と再生」を経ます。これにより主人公は完全に生まれ変わります。
エリクサーを持って帰還(Return with the Elixir)
主人公は精神的・物質的な宝を持ち帰り、日常世界にもたらします。世界を変えたり、人々を救ったり、自身の成長を周囲に還元したりして物語は幕を閉じます。
※「エリクサー」は、元々は 「万能薬」「霊薬」 という意味の言葉で、伝説や神話に登場する 「不老不死の薬」や「奇跡を起こす薬」 などを指します。
まとめ
- キャンベルの研究: キャンベルが提示した「モノミス(Monomyth)」理論は、世界中の神話や伝承に共通する基本構造を示しています。彼の著書『千の顔をもつ英雄』では17段階が示されている。
- 12段階との関係: 広く普及している12段階の「ヒーローズ・ジャーニー」は、後の研究者(特にクリストファー・ヴォグラー)が物語構成や脚本術に応用しやすい形にまとめたもの。
- 汎用性・普遍性: これらの段階は、人間の内的成長や冒険心、恐怖などの普遍的な要素を扱うため、多くの物語の基盤となっています。小説・映画・ゲーム制作に応用できるうえ、既存の物語を深く理解する枠組みとしても役立ちます。
キャンベルが解き明かした「モノミス(Monomyth)」と、その応用形としての12段階のヒーローズ・ジャーニーを知ることで、物語の構造をより豊かに味わうことができるでしょう。
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