フェルミ推定とは? 考え方や具体的な方法を解説【例題あり】
フェルミ推定とは、限られた情報から短時間で「大まかな数」を見積もる計算手法です。
例えば「シカゴにピアノ調律師は何人いる?」といった問題を、論理的に分解しながら推定するのが特徴で、コンサルのケース面接やビジネスの市場分析、エンジニアリングの負荷試算など幅広い場面で活用されています。
本記事では、フェルミ推定のやり方・計算方法をわかりやすく解説し、例題や練習問題も交えて実践的に学べる内容になっています。
「論理的思考を鍛えたい」「面接対策をしたい」「ざっくりした市場規模を知りたい」といった方は、ぜひ最後までご覧ください!
フェルミ推定とは
フェルミ推定(Fermi estimation) とは、物理学者エンリコ・フェルミ(Enrico Fermi, 1901–1954)が得意としていた、「複雑に見える数量を、大まかに素早く見積もる」 手法です。
フェルミは、原子爆弾の実験で爆発の威力やエネルギーを「簡単な現象観察」と「おおまかな計算」だけで近似してしまった逸話などで知られています。
この考え方は、ビジネスや学術研究で「ざっくり規模感を知りたい」というときに非常に便利です。
フェルミ推定のポイントは「正確な数値」ではなく「誤差はあっても桁(オーダー)が分かれば十分」という割り切りにあります。
フェルミ推定の代表例
シカゴのピアノ調律師の数
「シカゴにはピアノ調律師が何人いるか?」という有名な問題があります。最初にシカゴの人口や世帯数、ピアノ所有率、調律の頻度、調律師の年間作業量などを仮定し、最終的に「数百人程度」という推定が得られます。
なお、この問題では「1世帯あたりの人数」や「ピアノ所有率」がざっくり仮定されますが、実際の統計と完全に一致する必要はありません。「約3人/世帯」という仮定があり、日本の平均2.3〜2.5人/世帯と比べると少し大きめですが、フェルミ推定では“おおまか”でかまわないというスタンスで行われます。
フェルミ推定が役立つシーン
- マーケティング・ビジネスでの需要予測
- 新商品の市場規模をざっくり把握したいとき
- 顧客数や売上見込みを素早く算出したいとき
- 企画提案・プレゼンテーション
- 「こんなに大きなマーケットがある」という大まかな根拠を示したいとき
- 詳細なデータがまだない段階の説得材料
- エンジニアリング・研究開発
- サーバー負荷や通信量の概算を知りたいとき
- 新サービスのリソース配分をざっくり見積もるとき
- 就職や転職の面接(ケース面接)
- コンサル業界や事業会社でのビジネスケース問題に対応するとき
- 論理的思考力をアピールしたいとき
フェルミ推定のポイントと手順
- 目的をはっきりさせる
- 何を知りたいのか?(人数・金額・時間・回数など)
- どれくらいの精度を目指すのか?(ざっくり10倍以内のオーダーがわかればいいのか、それともさらに狭めたいのか?)
- 要素分解する(モデル化)
- 問題を細かいステップに分け、それぞれを推定しやすい形にする
- 例:「人口→世帯数→所有率→利用頻度→1人あたり対応量」など
- 合理的な仮定を設定する
- 公開されている統計や平均値など、可能な限り参考になるデータを使う
- 日本の場合、1世帯あたりの人数は約2.3~2.5人が統計的な平均
- 何も情報がなければ、他の類似データや常識的な数字を基準にする
- 計算をわかりやすい数に丸める
- たとえば人口を1億2,500万人 → 1億人、世帯数を5,000万世帯 → 5,000万 などにして、計算しやすくする
- フェルミ推定の計算をスムーズにする丸め方のコツ
- 端数を切り上げ・切り捨てする(10や5の倍数にする)
- 例: 「2,900万人」を「3,000万人」に、「4,600万世帯」を「5,000万世帯」に近似
- 誤差が桁を変えない範囲で調整
- 例: 4.7億を5億にするのは問題ないが、4.1億を5億にすると誤差が大きくなりすぎる
- 計算しやすい倍数で置き換える
- 例: 1,250万人 → 1,200万人(単純な割り算をしやすくするため)
- フェルミ推定では、「計算をシンプルにすること」が重要なので、極端な丸め方をしないように意識しつつ、桁感が変わらない範囲で調整するのがポイントです。
- 結果のオーダーを確認する
- 数十なのか、数百なのか、数千なのか…という大まかな桁をつかむ
- フェルミ推定のゴールは「正確な値」ではなく「桁感」を把握すること
- 感覚的に妥当かどうか確認する
- 結果を見て「常識的に乖離していないか?」を最後にチェック
- 大きく外れていそうなら、仮定を見直す
フェルミ推定が適用しづらいケース・限界
- 仮定が大きく外れる場合
すでにリソース(実際の市場データなど)があるにもかかわらず、それらを全く参照しないと、大きくずれた推定になってしまう恐れがあります。
例:ユーザーの行動様式が特殊で平均的な数値が参考にならない場合、フェルミ推定だけで判断すると失敗する可能性が高い。 - 全くデータがない(完全に未知)ケース
社会的常識や近似値すら使えないほど未知の領域では、仮定自体が過剰に恣意的になり、推定が成り立ちにくくなります。 - 強く相関する要素が絡む複雑な系
要素間の相関関係が非常に強い場合、単純な分解では不正確になりがちです。
例:ある環境問題で、温暖化と人口増加、経済活動が密接に絡んでいるときなど。 - 推定値の信頼区間の考慮が難しい
実際は、推定値の上限と下限をある程度のレンジで示すことが望ましいですが、フェルミ推定ではそこまで厳密な信頼区間を算出するのは難しい場合があります。
ポイント:
フェルミ推定はあくまで概算であり、実際のデータや詳細調査がある場合は必ず補完的に使用し、最終的には正確性を検証するステップを忘れないことが重要です。
フェルミ推定の結果に信頼区間を持たせる方法
完全な信頼区間を示すのは難しいですが、以下のような工夫である程度の誤差範囲を考慮できます。
- 異なる仮定を複数設定し、上限・下限を推定する
- 例:「1世帯あたりのピアノ所有率」を 10世帯に1台 と 30世帯に1台 の2パターンで試算し、それぞれの結果を比較する。
- 実際のデータがある場合は比較し、補正する
- 例:「日本のコンビニ数」を推定した後、総務省や業界団体のデータと比較し、大きなズレがあれば仮定を見直す。
- 計算結果を「1桁のオーダー」で表現する
- 例:「約10万台」や「数千人」といった、適度に広い範囲で示すことで、過度に細かい値に固執しない。
フェルミ推定では、厳密な信頼区間を求めるのではなく、「複数の可能性を試す」「大まかな誤差範囲を意識する」といったアプローチを取ることが重要です。
フェルミ推定の計算例
日本全国にあるコンビニの推定
- 前提
- 日本の人口:1億2,500万人(ざっくり1億2,000万人でも可)
- 1店舗あたりがカバーできる人口(商圏人口)を仮定:1,500人
- 大都市では1店舗あたり数百人規模、小さい町では数千人規模とばらつきがありますが、ここでは1,500人とします。
- 計算
1億2,500万人 ÷ 1,500人 ≈ 83,000店舗 - 実際の店舗数
大手3社(セブン-イレブン・ファミリーマート・ローソン)だけで約5万店舗あり、その他のチェーン店を含めると6万近くになると言われています。
フェルミ推定では約8万3千店舗と出ていますが、誤差はあるものの桁としては大きくかけ離れていません。
日本の1日の卵消費量
- 前提
- 日本の人口:1億2,500万人
- 1人あたり1日何個食べるか:ここでは0.5個(週に3~4個ほど食べるイメージ)
- 計算
- 1日あたりの卵消費量 = 人口 × 1人あたり消費個数
- 1億2,500万人 × 0.5 ≈ 6,250万個/日
- 実際との比較
統計で見ると、日本人は1人あたり年間で約330個近くの卵を消費しているというデータもあります(業務用含む)。
1日あたりにすると約0.9個ほどにもなりますが、ここでは0.5個と仮定したので若干少なめ。
いずれにせよ「数千万個/日レベル」というオーダーは把握できるわけです。
フェルミ推定の練習問題
実際にフェルミ推定を試してみましょう。以下の問題について、仮定を設定しながら計算し、大まかな規模感をつかんでください。
参考として解答の一例も置いておきますが、ご自身が独自に仮定を設定してみることが重要です。
解き方のポイント:
①日本に自動販売機は何台あるか?
ヒント: 日本の人口、1台あたりの利用者数、設置場所の分布などを考える
① 日本に自動販売機は何台あるか?
仮定の設定
- 日本の人口 → 約 1億2,500万人(計算しやすいように 1億2,000万人 に近似)
- 自動販売機の設置密度 → 例えば「100人あたり1台」と仮定(都市部は密集、田舎は少ないが平均するとこの程度)
- 計算 1億2,000万人÷100=120万台1億2,000万人 ÷ 100 = 120万台1億2,000万人÷100=120万台
実際のデータとの比較
- 日本には約 360万台 の自動販売機がある(業界データ)。
- フェルミ推定の結果は 120万台 で、実際より少ないが「数百万台レベル」というオーダー感は把握できている。
- 設置密度を 「50人に1台」 にすると、 1億2,000万人÷50=240万台1億2,000万人 ÷ 50 = 240万台1億2,000万人÷50=240万台 となり、より実際のデータに近づく。
② 1日に日本で配達されるAmazonの荷物の数は?
ヒント: 日本の世帯数、1世帯あたりの利用頻度、Amazonの市場シェアを仮定する
② 1日に日本で配達されるAmazonの荷物の数は?
仮定の設定
- 日本の世帯数 → 約 5,000万世帯
- Amazon利用率 → 例えば「全世帯の 50% がAmazonを利用」と仮定
- 1世帯あたりの購入頻度 → 1週間に 2回 注文すると仮定(1週間は7日なので、1日あたり 2 ÷ 7 = 0.3回)
- 計算 5,000万世帯×505,000万世帯 × 50% × 0.3回 = 750万個/日5,000万世帯×50
実際のデータとの比較
- 日本でのEC総流通量は 1日1,000万〜2,000万個(Amazon以外も含む)。
- Amazonのシェアを考えると、フェルミ推定の 750万個 は妥当な範囲。
③ 東京のオフィスビルの数を推定せよ
ヒント: 東京の面積、商業地区の割合、ビル1棟あたりのオフィス数を考える
③ 東京のオフィスビルの数を推定せよ
仮定の設定
- 東京の面積 → 約 2,200 km²(計算しやすいように 2,000 km² に近似)
- 市街地の割合 → 50%(都市部以外の住宅地・公園・河川を除外)
- 1 km²あたりのオフィスビルの数 → 例えば「10棟」と仮定(高層ビルが多いエリアと少ないエリアの平均)
- 計算 2,000km2×502,000 km² × 50% × 10 = 10,000棟2,000km2×50
実際のデータとの比較
- 東京23区のオフィスビルは 約8,000〜12,000棟 という推定があるため、フェルミ推定の「約10,000棟」は妥当。
フェルミ推定のメリット
- 迅速な意思決定
- 企画や調査において、まずは「ざっくり」の規模を知りたいときに大いに役立つ
- 論理的思考力のアピール
- 面接や会議で、「根拠のない勘」ではなく「大まかなデータ」をもとに説明できる
- 問題点の洗い出し
- 要素分解のプロセスで「どの仮定がもっとも影響が大きいか」がわかり、追加調査や深掘りが必要な箇所を特定できる
- コミュニケーションの促進
- 仮定を共有することで、チーム内の前提条件をすり合わせやすい
- 大まかな数値があると議論が進めやすくなる
フェルミ推定を使う際の注意点
- 正確な数字ではない
フェルミ推定はあくまで概算。結果の数字に惑わされず、「オーダー把握が目的」という点を意識する。 - 仮定の根拠を明示する
仮定が変われば答えが大きく変わる。可能な限り、「どんなデータや常識をもとに仮定したか」を説明する。 - 実際のデータや詳細分析との併用が理想
仮定だけに頼らず、入手可能な統計・調査データがある場合は積極的に利用することで精度が上がる。 - 強い相関関係や不確実性の高い要素には注意
単純に分解できない複雑な要素は、別の方法で補完したり、追加シナリオを検討したりする必要がある。
さまざまな分野への応用例
- 科学・学術研究
- ある実験装置の必要容量や、試薬の総使用量を概算する
- 環境問題(CO₂排出量など)の大まかな推定
- 環境問題・社会問題
- 世界のプラスチックゴミ排出量の概算
- 大気汚染の発生源ごとの排出量のざっくりした推定
- 医療・ヘルスケア
- 特定疾患の患者数予測(人口全体の何%が該当するかの仮定)
- 必要な医師・看護師の大まかな人数見積もり
- 失敗例や困難なケース
- 何らかの新技術や、新たな現象を初めて扱うときで、類似データや常識的推定がまったくできない状況
- 強く相関する要素が多く、単一の仮定でカバーできないケース
まとめ
- フェルミ推定 は、短時間でオーダー(桁感)をつかむための強力な思考法。
- 精密な数字を出すのではなく、「大まかな規模感」を知るのが目的。
- 仮定を複数設定してみて、どの仮定が結果に影響を与えるかを考えながら、時には実際のデータも補完的に参照して精度を高める。
- 強い相関関係や未知の要素が多いケースなど、フェルミ推定が苦手な場面もあるため、使いどころを見極めることが大切。
ビジネス、研究、日常生活において、「なんとなくこうだろう」ではなく、最低限の根拠をもった概算を素早く出せるスキルは非常に重宝されます。フェルミ推定のアプローチを身につけると、思考の幅がグッと広がるはずです。ぜひ実践してみてください。
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