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システムにおける「論理削除」と「物理削除」:画面の裏側の面白い仕組み【データベース】
この記事では、システム開発や運用における「論理削除」と「物理削除」について、できるだけ分かりやすく解説します。今回は用語の意味・メリット・デメリットを整理しながら、具体例も交えて説明します。
論理削除(Logical Deletion)とは
論理削除の概要
論理削除とは、データベースなどのシステム上で対象データを完全には消去せず、「削除フラグ」や「無効フラグ」を立てるなどして、アプリケーション上では「削除されたように扱う」仕組みのことです。
実際にはデータ自体は残っており、あくまで「論理的に削除された状態」として扱います。
具体的な例
- ユーザー管理:
システムから退会したユーザーは「退会フラグ」や「無効化フラグ」を立てて、ログイン不可にする。
しかしデータベース上では「ユーザー情報テーブル」に行は残ったまま。 - 商品管理:
「販売終了フラグ」を立てて、フラグが立っている商品は検索画面に表示しない。
論理削除のメリット
- データの復元が容易
フラグを元に戻せばすぐに「削除前の状態」に復元可能です。 - データ履歴の追跡ができる
過去に削除されたデータでも、分析や監査のために参照したい場合があります。論理削除なら履歴が追えるケースが多いです。 - 外部キー制約や依存関係の管理が容易
論理削除の場合、実データは消えないので、他テーブルやシステムとの参照関係が崩れにくいです。
論理削除のデメリット
- データが肥大化しがち
本来削除されるべきデータがずっと残っていくため、テーブルが大きくなりパフォーマンスに影響が出る場合があります。 - 判定ロジックの煩雑化
アプリケーション開発では「削除フラグが立っているデータを除外する」といった条件を常に考慮しなければならないため、SQLやロジックが複雑になることがあります。 - 誤操作リスク
「削除済みなのにアプリケーションのバグや設定ミスで表示されてしまった」といったリスクが発生します。
物理削除(Physical Deletion)とは
物理削除の概要
物理削除とは、データベース上から行(レコード)やファイルシステム上のファイルを完全に削除し、実体を消すことです。
論理削除とは異なり、文字通りデータを「物理的に」取り除くため、一度削除したデータを簡単に復元することは困難または不可能となります。
具体的な例
- ユーザー情報テーブルからレコードを完全削除し、関連するログイン情報や注文情報なども cascade(連鎖削除)で物理削除する。
- 不要になったファイルをサーバーのファイルシステムから消去する。
物理削除のメリット
- データ容量を削減できる
不要なデータを確実に消去するため、ストレージやデータベースの肥大化を抑えられます。 - 検索・集計のパフォーマンス維持
存在しないレコードは全く残らないので、テーブルサイズの増加を抑えやすく、処理パフォーマンスを維持できます。 - 管理がシンプル
論理削除の場合のような「削除フラグを意識する」必要がなくなるため、システムロジックがシンプルになります。
物理削除のデメリット
- 復元が困難
誤って削除してしまった場合や、後から参照したい場合でも、物理削除したデータは簡単に元に戻せません。バックアップからのリストア(復元)以外に手段がないことも多いです。 - 監査ログや履歴調査が難しくなる
何がいつ削除されたかという情報が追いにくくなります。監査やトラブルシューティングの面で不便な場面が出てきます。 - 外部キーや依存関係の考慮が必要
物理削除すると参照先のデータが消えてしまうため、外部キー制約や他のシステムが利用しているデータを誤って消さないように注意が必要です。
選択の基準と使い分け
論理削除を選ぶケース
- 監査ログや履歴が重要: 過去データを参照する必要がある業務(金融、医療、ECなど)。
- ユーザーデータの復元が必要: ユーザーが誤って退会したり、商品を再度販売するようなケースに対応する必要がある。
- システムの可用性重視: 復元の手間を最小化して障害やミスに迅速に対応したい場合。
物理削除を選ぶケース
- データボリュームが大きい: どんどん蓄積されるデータを削除フラグで残しておくと、パフォーマンスに大きく影響する。
- 保管や監査の必要性が低い: 削除後の情報を参照する必然性が少なく、履歴を取る必要もない場合。
- 機密情報や個人情報の取り扱い: GDPRなどの個人情報保護法制により、データの完全削除が求められるときは物理削除が必須になる場合がある。
GDPR(General Data Protection Regulation)は、EU(欧州連合)における個人データ保護を目的とした包括的な規則です。2018年5月に施行され、企業や組織がEU圏の個人情報を取り扱う際に適用されます。個人データの取得、利用、管理、移転に関する厳しいルールを定めており、違反時には高額な制裁金が科されるなど、世界的に個人情報保護の意識を高める大きなきっかけとなりました。
ハイブリッド運用の事例
実務では、「基本は論理削除にしておき、一定期間(1か月、1年など)を過ぎたら物理削除を行う」というハイブリッド運用をすることもあります。
これにより、一時的な復元ニーズにも応えられつつ、データが無駄に蓄積しすぎるのを防ぎ、パフォーマンスやストレージ容量をコントロールすることが可能になります。
- 例:
- ユーザー退会後は論理削除。
- 退会後1年は復元可能期間としてデータを保持。
- その後は物理的に削除し、完全に消去。
まとめ
- 論理削除: データは残しつつ「削除フラグ」で制御。復元しやすく、履歴追跡ができるが、テーブル肥大化やロジックの複雑化に注意。
- 物理削除: データを完全に削除。管理がシンプルでストレージ節約になるが、復元が難しく履歴管理には工夫が必要。
システム要件やビジネスのニーズ、コンプライアンス要件などを踏まえ、適切な削除方式を選択してください。場合によっては論理削除と物理削除を組み合わせたハイブリッド運用が有効です。
ポイント
- データの扱い方はシステム品質や運用コスト、法令順守などに大きく影響します。
- 「一度削除したデータをどうするか」という観点から、どこまで消すのか、いつまで保持するのかをあらかじめ明確にしておくことが大切です。
以上が、システムにおける「論理削除」と「物理削除」についての分かりやすい解説です。どちらにも利点と欠点があり、ビジネス上・技術上の要件を考慮して使い分ける必要があります。
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