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SDGs目標5「ジェンダー平等を実現しよう」とは?世界と日本の現状や課題

SDGs目標5「ジェンダー平等を実現しよう」とは?世界と日本の現状や課題 SDGs

SDGs(持続可能な開発目標)の目標5「ジェンダー平等を実現しよう」は、性別による差別をなくし、すべての女性と女児のエンパワーメントを図ることを目的としています。これは単に「女性優遇」を目指すものではなく、性別に関わらず誰もが能力を発揮できる社会基盤を作るために不可欠な目標です。

結論から言えば、世界的に見てもジェンダー平等の達成には長い時間を要すると予測されており、特に日本は先進国の中で大きな遅れをとっています。世界経済フォーラムが発表した2024年のジェンダー・ギャップ指数において、日本は146カ国中118位という厳しい結果となりました。

この記事では、SDGs目標5の具体的な内容やターゲット、日本が抱える構造的な課題、そして私たち個人や企業ができる取り組みについて、最新データを交えて分かりやすく解説します。

ジェンダー平等(SDGs目標5)が目指す具体的なターゲット

SDGsの目標5には、達成すべき具体的な「ターゲット」が9つ設定されています。これらは、女性に対する差別の撤廃から、暴力の根絶、法制度の整備まで多岐にわたります。世界共通の課題として設定されているため、先進国と途上国で優先順位は異なるものの、すべての国が取り組むべき指標です。

主なターゲットとして、まず「女性に対するあらゆる形態の差別の撤廃」が挙げられます。これには法的な平等だけでなく、社会的な慣習や固定観念による差別も含まれます。また、「人身売買や性的搾取を含む、女性に対するあらゆる形態の暴力の排除」も重要課題です。家庭内暴力(DV)やハラスメントは、個人の尊厳を深く傷つける人権侵害であり、早急な解決が求められています。

さらに、「無償の育児・介護や家事労働の認識」も大きなポイントです。家庭内の仕事が経済的な価値として評価されず、女性に負担が偏っている現状を変えるために、公共サービスの提供や責任の分担が推奨されています。これらを実現するための「法整備」や「リプロダクティブ・ヘルス/ライツ(性と生殖に関する健康と権利)」の保障も、ターゲットに含まれています。

参考:JAPAN SDGs Action Platform(外務省)

【比較表】日本のジェンダーギャップ指数の現状と世界との差

日本のジェンダー平等の現在地を知るために最も分かりやすい指標が、世界経済フォーラム(WEF)が公表している「ジェンダー・ギャップ指数」です。日本は教育や健康の分野では世界トップクラスの平等を達成している一方で、政治と経済の分野で著しく順位を下げています。

以下の表は、2024年の日本の分野別スコアと順位をまとめたものです。0が完全不平等、1が完全平等を意味します。

分野日本の順位(146カ国中)スコア(0〜1)現状の評価
総合順位118位0.663G7(主要7カ国)で最下位
教育72位0.993識字率や就学率では男女差はほぼ解消されている
健康と生存58位0.973出生時の男女比や健康寿命において高水準を維持
経済120位0.568賃金格差や管理職比率の低さが大きく影響している
政治113位0.118国会議員や閣僚の女性比率が極めて低い
参考:世界経済フォーラム「Global Gender Gap Report 2024」(WEF)

このデータから分かる通り、日本社会においては「読み書きや健康」に関しては男女平等が進んでいますが、社会に出てからの「意思決定」や「収入」の面で大きな壁が存在しています。特に政治分野のスコア0.118は、世界的に見ても極めて低い水準であり、政策決定の場に女性の声が十分に反映されていない現状を浮き彫りにしています。

日本が直面する課題1:経済分野における賃金格差と管理職比率

日本が抱える最大の課題の一つが、経済分野におけるジェンダー不平等です。男女間の賃金格差は依然として大きく、OECD(経済協力開発機構)の調査でも、日本の男女間賃金格差は加盟国平均よりも大きい状態が続いています。

この背景には、女性の非正規雇用率の高さがあります。出産や育児を機に一度キャリアを離脱せざるを得ない女性が多く、再就職の際に非正規雇用を選ばざるを得ないケースが少なくありません。結果として、勤続年数の差や職務の違いが生じ、それが賃金格差へと直結しています。また、「男性は仕事、女性は家庭」という固定的性別役割分担意識が、企業の人事評価や昇進システムに無意識の影響を与えている可能性も否定できません。

さらに、企業の意思決定層である「管理職」に占める女性の割合が低いことも深刻です。政府は「2020年代の可能な限り早期に指導的地位に占める女性の割合を30%程度にする」という目標を掲げていますが、達成には遠いのが現状です。多様な視点が経営に反映されないことは、イノベーションの阻害要因にもなり得るため、企業にとっても是正すべき経営課題となっています。

参考:男女共同参画局「男女共同参画白書 令和6年版」(内閣府)

日本が直面する課題2:政治参画の遅れと意思決定への影響

政治分野における女性参画の遅れは、日本のジェンダーギャップ指数を押し下げる最大の要因です。衆議院議員に占める女性の割合は長年10%前後で推移してきましたが、世界平均が26%を超えていることを考えると、その少なさは際立っています。

政治の場に女性が少ないことは、女性特有の健康問題、キャリア形成、子育て支援、性暴力被害などに関する政策が後回しにされやすいという問題を生みます。多様な国民のニーズを政策に反映させるためには、意思決定の場における構成員の多様性が不可欠です。クオータ制(議席や候補者の一定数を女性に割り当てる制度)の導入議論もありますが、法的拘束力のある制度導入には至っていません。

地方議会においても同様の傾向が見られ、女性議員が一人もいない「女性ゼロ議会」も依然として存在します。身近な生活課題を解決する地方政治の場においても、ジェンダーバランスの不均衡は住民サービスの質の偏りにつながる恐れがあります。政治家を目指す女性に対するハラスメント(票ハラ)対策や、立候補しやすい環境づくりが急務となっています。

無償ケア労働(家事・育児)の不均衡と是正への取り組み

ジェンダー平等を阻む見えにくい壁として「無償ケア労働」の偏りがあります。無償ケア労働とは、家事、育児、介護など、対価が支払われない労働のことです。日本では、この負担が圧倒的に女性に偏っています。総務省の社会生活基本調査によると、共働き世帯であっても、妻の家事・育児時間は夫の数倍に上るというデータがあります。

この負担の偏りは、女性がフルタイムで働くことや、責任ある役職に就くことを物理的に困難にさせます。「長時間労働が前提の働き方」と「ワンオペ育児」がセットになっている現状では、女性はキャリアか家庭かの二者択一を迫られがちです。SDGs目標5では、こうしたケア労働を評価し、家庭内だけでなく公共サービスやインフラによって社会全体で分担することを求めています。

近年では男性の育児休業取得率の向上が叫ばれ、制度改正も進んでいますが、取得日数や「取るだけ育休」といった質の問題も残されています。男性が家庭進出することは、女性の社会進出と表裏一体の関係にあります。家庭内の役割分担を見直し、互いに協力し合える環境を作ることが、ジェンダー平等の基盤となります。

【批判的視点】データと解釈をめぐる論点

ここまで日本のジェンダー平等の現状について、主に統計データに基づいて解説してきました。しかし、これらの指標や解釈については、学術的にも社会的にも異なる見解が存在します。より深い理解のために、主な論点を整理しておきましょう。

ジェンダーギャップ指数の測定方法への疑問

ジェンダーギャップ指数は有用な指標ですが、いくつかの限界も指摘されています。

測定の非対称性:この指数は「女性が不利な分野」のみを測定し、男性が不利な分野は反映されません。例えば、日本では男性の自殺率が女性の約2倍、労災死亡者の95%以上が男性、ホームレスの約9割が男性ですが、これらは指数に影響しません。健康分野で日本が58位となっていますが、女性の平均寿命は世界トップクラスという事実もあります。

文化的多様性の軽視:指数は北欧型の働き方や社会モデルを暗黙の「理想」として設定していますが、家族の形や働き方には文化的多様性があります。専業主婦/主夫を自ら選択する自由は、この指数では評価されません。「誰もが外で働くべき」という前提自体が、一つの価値観に過ぎないという指摘もあります。

機会と結果の混同:指数は「結果の平等」のみを測定しており、「機会の平等」が保障された上での自由な選択の結果なのか、構造的差別の結果なのかを区別できません。例えば、理工系学部の女性比率が低いのは、入学機会が制限されているからではなく、選択の結果である可能性もあります。

「なりたい人が少ない」問題の複雑さ

政治家や企業管理職に女性が少ない理由として、「そもそもなりたいと思う人が少ない」という意見があります。これは実際、各種調査でも示されています。

女性自身の意向データ:内閣府や企業の調査では、女性管理職候補の多くが「昇進を望まない」と回答しています。理由としては、責任の重さ、長時間労働への懸念、家庭との両立困難さなどが挙げられます。政治家を目指す女性も、立候補者数自体が男性に比べて少ないのが現実です。

因果関係の解釈をめぐる対立

【構造的障壁説】

  • なりたくないのは、環境が整っていないから
  • ロールモデル不足、ハラスメント、性差別的な職場文化
  • 家事育児の負担が重すぎて物理的に不可能
  • つまり、選択の「自由」が実質的に奪われている状態

【個人の選択説】

  • 男女で価値観や人生の優先順位が平均的に異なる可能性
  • 政治や管理職を魅力的に感じない自由もある
  • 結果の不平等は必ずしも機会の不平等を意味しない
  • 強制的に「平等な結果」を目指すこと自体が自由の侵害

真実はおそらく両方:構造的な障壁も確実に存在する一方で、障壁がすべて取り除かれても完全に50:50にはならない可能性もあります。重要なのは、「望む人が望むキャリアを追求できる」環境を整えることであり、「結果として50:50にする」ことが目的化すると、別の問題を生む可能性があります。

クオータ制をめぐる賛否

女性議員や役員を一定比率確保するクオータ制には、強い賛否両論があります。

賛成論:長年の構造的差別を是正するには強制力が必要、ロールモデルが増えれば次世代が育つ、多様性が意思決定の質を高める

反対論:能力より性別を優先することへの疑問、「女性枠」として見られることでかえって偏見を強化する可能性、逆差別(男性への不当な制限)の問題

この論点に「正解」はなく、社会がどのような価値を優先するかという選択の問題でもあります。

多様な視点を持つことの重要性

これらの論点は、ジェンダー問題が単純な「進んでいる/遅れている」の二項対立では語れないことを示しています。重要なのは以下の点です。

  • データは事実だが、解釈には幅がある:118位というランキングは事実ですが、それが何を意味するかの解釈は多様です
  • 複数の価値観を認める:キャリアを追求したい人も、家庭を優先したい人も、どちらも尊重される社会が理想です
  • 目的と手段を混同しない:目的は「誰もが望む人生を送れる社会」であり、「数値目標の達成」自体が目的ではありません

この記事で示したデータは、日本社会の一側面を映し出していますが、それがすべてではありません。そもそもの「データの取り方」自体に疑義があるのも実情です。

中立かつ様々な観点からデータを読み解き、自分なりの考えを持つことが大切です。

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まとめ:ジェンダー平等は「誰かのため」ではなく「全員のため」

SDGs目標5「ジェンダー平等を実現しよう」は、女性のためだけの目標ではありません。性別に基づく役割の押し付けから解放されることは、男性にとっても「大黒柱でなければならない」「弱音を吐いてはいけない」といったプレッシャーからの解放を意味します。

日本における課題は、経済と政治の分野に集中しており、これらは長年の慣習や制度が複雑に絡み合っています。しかし、企業のダイバーシティ推進や男性育休の普及など、変化の兆しは確実に現れています。

同時に、この記事で触れたように、ジェンダー問題には多様な視点と解釈が存在します。大切なのは、一つの「正解」を押し付けるのではなく、それぞれの人が自分の価値観に基づいて自由に選択できる社会を作ることです。

私たち一人ひとりができることは、まず自身の無意識の偏見(アンコンシャス・バイアス)に気づくことです。「男だから」「女だから」という枕詞を外し、個人の能力や個性を尊重する姿勢を持つこと。そして、異なる意見にも耳を傾け、対話を重ねること。それが、持続可能で公正な社会への第一歩となります。

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